アスコルビン酸ペルオキシダーゼのcDNAクローニング
研究ノート
久保 明弘
私たちの研究グループは,環境研究に分子生物学的手法や遺伝子工学的手法を活用しようとしている。これまでの研究から,オゾンが植物に被害を与える際に,活性酸素(O2-など)が関与していることなどが明らかになっている。葉緑体の活性酸素消去系に属するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)は,オゾンに接触した植物で活性が上昇するので,オゾンの解毒に積極的な役割を果たしていると考えられる。そこで,植物細胞内のAPXの量を遺伝子工学的に増加または減少させることにより,植物のオゾン耐性を変え,オゾン浄化植物やオゾン指標植物を開発することを目指している。このためには,まず,APXをつくる情報を持っているDNA(核の遺伝子,またはmRNAから作ったcDNA)を単離(クローニング)し,次に,それを改変して植物に導入しなければならない。
APXのcDNAクローニングを試みていたが,シロイヌナズナcDNAライブラリーを抗体でスクリーニングすることにより,APXのcDNAクローニングに成功した。この酵素は,植物,原生動物,ラン藻に存在しているが,これまで遺伝子やcDNAがクローニングされた例がない。そのため,得られたcDNAがAPXのものであることを証明するのに,既知のものとの比較という方法は取れなかった。図は,この証明を,すでに得られているホウレンソウAPXに対する単クローン性抗体(それぞれ特定の部位に結合する抗体)を用いて行った結果である。得られた3種類のcDNA(APm1-3)から作られるタンパク質をフィルターに固定したのち(gt11はcDNAなしのコントロール),それぞれの単クローン性抗体との反応を調べた。シロイヌナズナAPXにも反応しうる5種の抗体(1,3,4,6,8)のうち,4種の抗体(1,3,6,8)が反応したことから,APXのcDNAが得られたことが証明された。
今後,これをオゾン指標植物やオゾン浄化植物の開発のために利用していきたい。

目次
- 国立環境研究所に向けて巻頭言
- 不破敬一郎前所長の退官記念特別講演会その他の報告
- 地球環境保全に先導的役割を論評
- 環境モデル選択のこころ論評
- 大海に漕ぎ出せ,但しかじ取りを誤らぬように論評
- “誰が研究するのか”論評
- 国立環境研究所の発足に際して論評
- 国立環境研究所への期待論評
- 有機的な連携で論評
- 超目的と社会論評
- 新機構の国立環境研究所への期待論評
- 同じ国立試験研究機関の立場から論評
- 大学との研究交流の推進に期待する論評
- 農薬汚染の水生生物に対する影響調査環境リスクシリーズ(6)
- 地球流体中の非線形波動のモデル化と計算機シミュレーション経常研究の紹介
- 奥日光外山沢川の水生昆虫経常研究の紹介
- 環境週間について所内開催又は、当所主催のシンポジウム等の紹介
- 新刊・近刊紹介
- 表彰・主要人事異動
- 編集後記