環境モデル選択のこころ
論評
(社)農林水産技術情報協会技術主幹 廣崎 昭太
公害研究が環境研究の部分集合であるならば,国立環境研究所で研究されるモデルあるいは理論は,公害研究におけるよりも,多数の構成要素あるいは変数を必要とする場合が多いであろう。
研究の対象である問題あるいは現象をモデル化するとき,最も単純には1組の入出力変数の間の関数関係を定める事であるが,その関係は他の変数の状態で変化することは,環境研究者が常に出会っている問題である。したがって,現実との近似をよりよくするためには,モデルに組み込む変数(要素)をできるだけ多くしたいけれども,与えられる経費には限界があるので,モデル検証のためのデータ量はいつも十分とは言えない。
限られた情報下で,最もよいモデルを選択・決定するための方法については,予測誤差平方和(PSS)や情報量基準(AIC)など多くの研究が行われているが,よいモデルとは何かという判断の基準として再現性や予測精度の重要性が,手持ちデータをうまく説明できることより大切であるという考え方に異議は少ないであろう。特に環境モデルでは制御を目的とする事が多いので再現性の検討が重要である。
しかし,これらの論理的・定量的モデル選択方法の背後には,人類将来の幸せと,それを保証する地球環境について,個々の研究者がどのような考え方をするか,いいかえれば,研究者の人生観,科学観,環境観がモデル選択に大きな役割を果たしていることを忘れないで欲しいと願っている。
(ひろさき しょうた,前環境情報部長)
目次
- 国立環境研究所に向けて巻頭言
- 不破敬一郎前所長の退官記念特別講演会その他の報告
- 地球環境保全に先導的役割を論評
- 大海に漕ぎ出せ,但しかじ取りを誤らぬように論評
- “誰が研究するのか”論評
- 国立環境研究所の発足に際して論評
- 国立環境研究所への期待論評
- 有機的な連携で論評
- 超目的と社会論評
- 新機構の国立環境研究所への期待論評
- 同じ国立試験研究機関の立場から論評
- 大学との研究交流の推進に期待する論評
- 農薬汚染の水生生物に対する影響調査環境リスクシリーズ(6)
- 地球流体中の非線形波動のモデル化と計算機シミュレーション経常研究の紹介
- 奥日光外山沢川の水生昆虫経常研究の紹介
- アスコルビン酸ペルオキシダーゼのcDNAクローニング研究ノート
- 環境週間について所内開催又は、当所主催のシンポジウム等の紹介
- 新刊・近刊紹介
- 表彰・主要人事異動
- 編集後記