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地球流体中の非線形波動のモデル化と計算機シミュレーション

経常研究の紹介

花崎 秀史

 地球上の大気及び海洋中(地球流体と呼ばれる)には様々な種類の波動が存在するが,その発生原因には大きく分けて二つある。一つは地球の自転(回転)に伴うコリオリ力により生じる慣性波であり,もう一つが,流体の密度が鉛直方向に一定でないこと(成層)により生じる浮力効果が地球の重力に対する復元力となって起こる内部重力波である。内部重力波の例として,山の風下側に形成される山岳波(=風下波)があるが,風下波は,波長が山の水平スケールとほぼ一致する時に振幅が大きくなるなど,山の近傍での流れのパターンや汚染物質の拡散経路に大きな影響を与える。

 従来の内部重力波の理論的研究は,波の振幅が非常に小さいことを予め仮定した運動方程式を解いていた(線形理論)。この近似で上述の風下波についても,ある程度満足の行く結果が得られていた。しかし,実際には線形性の仮定により無視した項の寄与が,小さな定量的な差に留まらず,定性的に根本的に異なる結果を導くことが多い。その例が,山岳の上流側に発生する内部重力波にも見られる。線形理論によると,物体の上流側に伝播する波は時間の−1/3乗に比例して減衰するが,線形近似を行わない非線形の運動方程式(非線形方程式の厳密解は殆どの場合,具体的に簡単な形で表すことはできない)を電子計算機により数値的に近似的に解くと,上流へ伝播する波は,時間が経過しても消滅せず,一定の振幅を取り続ける(図1,図2)。こうした現象のメカニズム解明(モデル化)は,数値解から得られる情報を再合成し,逆に帰納的に,本質的な部分のみを取り出した支配方程式を予測することにより可能となる。最近,非線形効果を取り入れた理論的モデルとして,山などによる撹乱の効果を方程式の外力項として持つforced KdV方程式と呼ばれる方程式が提案されているが,数値計算結果から,より高次の非線形性や流体の粘性の効果が重要であることが明かとなった。

 尚,forced KdV 方程式とその変形版は,地球規模の長波長のロスビー波に始まり,海洋表面の津波や通常の水面波に至るまで,非常に多くの系において成立し,高い普遍性を持っている。従ってこの方程式に関連した研究は,今後,地球流体に関する非常に多くの現象のメカニズム解明に役立つことが期待される。

(はなざき ひでし,大気環境部大気環境計画研究室)

図2  内部重力波の,時刻t=0からの時間発展