国立環境研究所に向けて
巻頭言
所長 小泉 明

わが国立公害研究所は,1974年3月15日に開設され,16年余の期間,大気汚染,水質汚濁,土壌汚染等の典型7公害と呼ばれる環境汚染を中心として,その現象解明と対策のための基礎的研究に取り組んでまいりました。研究所開設の目的,そのユニークな研究組織と各部門の機能については,設立準備委員会報告書(茅レポート)に明示されている通りであります。
環境科学研究の専門機関としてのわが研究所は,他のどこにもみられないような大型実験施設を揃え,研究者は自由な雰囲気のもとに水準の高い研究をおこない,その成果が次々と生み出されて現在に至りました。公害問題の解決に必要な基礎研究に関してわが国の中心的な存在としての使命は果たされてきたといえるのではないでしょうか。
一方,この16年余の間,科学技術にみられる進歩は著しく,あわせて産業構造や生活様式にも大きな変化がみられました。環境問題にも自然環境の保全や環境の快適さ追求などの課題が加わり,さらに地球的規模での環境研究の必要性が増大してまいりました。
この時期にあたって,国立公害研究所評議委員会(向坊隆座長)は,不破敬一郎前所長の諮問を受け,研究所の今後の研究体制の整備等のあり方について,慎重審議の末「提言」を示されました。研究所はこの評議委員会提言にもとづいて,新組織に向けての1年間にわたる体制整備をおこない,引き続いて本年7月1日を期して環境研究所移行への準備にあたってきております。
新研究体制の特徴としては,分野横断的なプロジェクト組織としての総合研究部門の創設,複合的な研究機構として環境情報センター,環境研修センターの併設ならびに10月1日を期しての地球環境研究センターという全く新しい概念での研究ユニットの創設,これらを含めての積極的な国際研究交流の促進などをあげることができます。
このような大きな改革が何らの苦難をも伴わずに成し遂げられるということはありえません。大切なことは,研究所の全員が苦楽を共にして,新しい大きな目標に立ち向かうことであります。
国立公害研究所16年余の歴史の中で培われた伝統を大切にしながら,環境研究の新しい展開に向けて,研究所の総力を結集してまいりたいと思います。
目次
- 不破敬一郎前所長の退官記念特別講演会その他の報告
- 地球環境保全に先導的役割を論評
- 環境モデル選択のこころ論評
- 大海に漕ぎ出せ,但しかじ取りを誤らぬように論評
- “誰が研究するのか”論評
- 国立環境研究所の発足に際して論評
- 国立環境研究所への期待論評
- 有機的な連携で論評
- 超目的と社会論評
- 新機構の国立環境研究所への期待論評
- 同じ国立試験研究機関の立場から論評
- 大学との研究交流の推進に期待する論評
- 農薬汚染の水生生物に対する影響調査環境リスクシリーズ(6)
- 地球流体中の非線形波動のモデル化と計算機シミュレーション経常研究の紹介
- 奥日光外山沢川の水生昆虫経常研究の紹介
- アスコルビン酸ペルオキシダーゼのcDNAクローニング研究ノート
- 環境週間について所内開催又は、当所主催のシンポジウム等の紹介
- 新刊・近刊紹介
- 表彰・主要人事異動
- 編集後記