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2014年6月30日

持続可能な環境都市の構築に向けて

【シリーズ先導研究プログラムの紹介:「環境都市システム研究プログラム」から】

藤井 実

 地球温暖化による気候変動の防止や、資源枯渇の回避が大きな課題になっています。先導研究・環境都市システム研究プログラムでは、社会・経済活動が集積する場所である「都市」を対象として、環境技術や環境政策について提案、評価する手法を開発し、これを利用して環境負荷の増大と自然環境の劣化を克服する、持続可能な都市の将来の姿を描くことを目的に研究を行っています。その研究範囲は多岐にわたりますが、ここではそのうちの一部、再生可能資源や未利用資源などの地域資源を活用した環境都市の計画作りについてご紹介します。

 どの都市も持続可能性を高める必要がありますが、2011年に発生した東日本大震災以降、とりわけ東北地方の太平洋沿岸地域の都市を復興し、持続的に発展させることが重要な課題です。国立環境研究所は、環境と経済が調和した持続可能な環境都市の再生に役立てることを目的として、福島県の沿岸部で、宮城県との県境に接する位置にある新地町と、連携研究の実施とその成果を活用するための基本協定を、2013年3月に締結しています。この地域の化石資源の消費抑制と温室効果ガスの排出抑制に寄与する、新たなエネルギー源となり得る未利用資源や再生可能資源には、どのようなものがあるでしょうか。

 まず、太陽光や風力は、再生可能エネルギーの代表的なものです。太陽光であれば晴天率が高いことが重要ですし、風力については安定して強い風が吹く、海岸や山の尾根などが適地となるものの、これらは新地町に限らず、どの地域にもある程度普遍的に存在しており、新地町の特徴的な地域資源という訳ではありません。再生可能エネルギーとしては、木材などのバイオマスの利用も注目されていますが、新地町で利用可能な森林資源の存在量は、それほど多くありません。

 新地町に特徴的と言える地域資源は、町内に大規模な石炭火力発電所(100万キロワット×2基)が稼働している点です。また、石炭火力発電所に隣接する港湾エリアには、液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地が建設される予定であり、町は大きなエネルギー供給拠点となりつつあります。大型の火力発電所では大量の熱が出ています。発電するためには避けられない排熱も多いのですが、一部無駄に使われている熱を有効利用する形で、周辺の工場、温室、給湯や建物の暖房などに使用できれば、それぞれの場所での石油やガスなどの消費を抑制し、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を減らすことが可能です。LNGは、日本では平均的に20℃前後である大気や水の温度(環境温度と呼びます)では気体の天然ガスを、タンカーへの積載を容易にする等の目的で、マイナス160度程度に冷却して液体にしたものです。海外から日本に運ばれたLNGを燃料として利用する際には、暖めて気体に戻しますが、その際に非常に低温の熱を回収して、冷凍や冷房に利用したり、環境温度との温度差を利用して、発電に利用したりすることもできます。

 ここでは火力発電所の熱利用について、化石燃料消費の削減効果の試算を行った事例を紹介します。一般的な石炭火力発電所では、石炭を燃焼させたガスをボイラーで熱交換して高温・高圧の蒸気を作り、これを使ってタービンを回して発電します。しかし、高温・高圧の蒸気も、容器の中に閉じ込めておくだけではタービンを回すことができません。温度・圧力の低い大気に向かって蒸気を解放し、そのときの蒸気の流れでタービンを回すことができますが、より効率が高いのは、海水などを使って蒸気を冷却して水に戻し、その際の体積変化を利用してタービンを回すことです。この時残念ながら海水に大量の熱が捨てられますが、熱(蒸気)を電気に変える際にはある程度避けられないエネルギーの損失です。海水の側は暖められるため、この温排水を活用することが考えられます。ただし、海洋環境を保全する観点から、温排水の温度は、取水した海水よりも7度高い温度範囲におさまるよう調節されており、エネルギー源としては温度差が小さく効率的ではありません。暖かい海水がそのまま利用できる魚の養殖などの用途に、温排水の一部が利用されています。

 次に熱が出るのは、石炭の燃焼排ガスです。石炭の燃焼熱の多くはボイラーで蒸気を作るために利用されていますが、ボイラーで熱交換した後の燃焼ガスも、100度超の温度があります。その後排ガス処理の工程を経るために、冷却されたり加温されたりして、最終的に煙突から放出されます。煙突から出る際の温度は、排ガスが浮力を得て遠くに拡散されるためにも重要なので、あまり多くの熱を取り出すことはできませんが、一部の熱を熱交換によって温水に変え、1年のうち寒冷な2000時間の間だけ、近隣の温室2ヶ所(これから建設されることを想定)に輸送して利用する場合を仮想して算定しました。温室の面積は合計12ヘクタール、発電所から各温室までの距離が2kmの場合を想定し、温水の輸送に必要なポンプの消費電力、温水を配管で運ぶ際の管壁からの放熱、発電所と温室に必要となる熱交換器の大きさなどを考慮しています。試算の結果、温室で年間に約1600 kLの石油の消費が削減され、ポンプの電量消費分を差し引いても、4300トンの二酸化 炭素の排出削減に繋がると算出されました。ただし、排ガスの温度は約3度低下します。このように地域資源を活用するケースを複数想定してそれらの効果を算定し、全体の計画作成に役立てていきます。なお図1は、新地町周辺で地域資源がどの程度のエネルギー需要を賄い得るかを、簡単に比較してみたものです。

図1
図1 新地町周辺の地域エネルギー供給ポテンシャルと需要の比較

 2013年度から新たに、東日本大震災の被災地の復興支援と環境創造に向けて、災害と環境に関する研究を行う環境創生研究プログラムが開始されました。新地町など福島県及びその周辺地域に着目した研究は、次第にこの新しいプログラムに移行しますが、環境都市システム研究プログラムでは、国内外の都市を対象に、様々な地域資源を考慮して、環境都市の将来像を描いていきます。これらの成果は、新地町等を対象とした研究にも、技術や政策の選択肢を拡大し、評価方法を提供する形で貢献します。多様な地域資源を適切に使いこなせる計画作成には、選定の際の羅針盤となるものが必要です。地域資源(エネルギーの供給側)と、需要側の適切な組み合わせを考えて導入することが重要ですが、エネルギーの質を考慮した図2のような整理が、羅針盤の役割を果たします。簡略化のために図には供給と需要の一部のみを記載しています。環境温度よりも高温であるほど、あるいは低温であるほどエネルギーの質が高く、自然界の法則としては、熱湯が冷めてぬるま湯になるように、あるいは氷が解けて水になるように、質の高いエネルギーは、質の低い方(環境温度に近づく方向)へ移行します。そのため例えば相対的に高温の排熱等を、より低温の熱需要に利用するエネルギーのカスケード利用は、自然現象の流れに沿った、技術的には実施が容易な地域資源の活用策です。このとき、なるべく需給間の温度差が少ないほど効率的です。一方、工場や発電所では、化石燃料を使用していますが、プロセスに必要な温度がそれほど高くない場合や、温度を上げたくても耐えられる材質がない場合もあり、必ずしもそのポテンシャルを活かせていません。そのような状況では、エネルギーとしては質の劣る地域資源を併用して、高品質な化石燃料を言わば希釈して使うことも有効です。この際、見かけ上地域資源がより質の高い形にアップグレードして用いられることになり、結果的に温室効果ガスの高い削減効果も期待されます。今は欠けている供給と需要を結ぶ線を、適切に選択しながら結んでいくことで、環境都市の計画が作成されることになります。

図2
図2 地域資源を活用するエネルギー供給方策の整理
カスケード利用:相対的に質の高いエネルギーを質の低い用途に利用、アップグレード利用:相対的に質の低いエネルギーを質の高い用途に利用

(ふじい みのる、社会環境システム研究センター 環境都市システム研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

藤井 実

 今年度から環境都市システム研究プログラム、プロジェクト1のリーダーを務めています。昨年このニュースの原稿を書いた時には0歳と2歳だった我が家の子供達は、当たり前ですが1歳と3歳になり、回りの環境に適応しながらどんどん成長しています。都市の研究も様々な状況変化に対応しながら、どんどん進められればと思います。

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