E-wasteリサイクル活動に伴う製品由来化学物質の周辺環境への拡散と集積-ベトナムでの調査事例から-
特集 アジアのE-wasteリサイクルを通じた資源と有害物質の管理
【研究ノート】
鈴木 剛
私たちは、家電を含む電気電子機器を日々の暮らしの中で使用しています。テレビを見たり、パソコンでインターネットをしたり、スーパーで買ってきた食品を冷蔵したり、衣類を洗濯・乾燥したり・・など、電気電子機器は誰にとっても日常生活に欠かせないものです。当然、製品として寿命を迎えて代替品を購入することや、新しいデザインや機能がついた新製品を購入することもあるでしょう。ここでは、その際に手放した家電製品を含む廃電気電子機器(E-waste)に関係する話題を紹介したいと思います。
リサイクルされるE-waste
E-wasteは、鉄や銅等の貴金属やレアメタル等の有用資源を含んでいるので、これらを回収するためにリサイクルが行われています。具体的には、資源有効利用促進法(資源リサイクル法)と特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)が平成13年4月から施行され、パソコン、家庭用エアコン、テレビ、冷蔵庫や洗濯機等の再資源化が進められています。平成25年4月から施行された使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律(小型家電リサイクル法)では、デジタルカメラやゲーム機等の小型電子機器が対象とされています。携帯電話についても、携帯電話リサイクル推進協議会によって、国内でのリサイクルが取り組まれています。
E-wasteに含まれる有用資源は、含有割合(濃度)が天然鉱石よりも高く、加工を経て使用されているため高品質であり、官民一体となった適切なリサイクルが今後も推進されていくでしょう。E-wasteの適切なリサイクルは、有用資源を有効に活用するだけでなく、最終処分場に埋め立てる廃棄物の減量や、天然鉱石の採鉱の抑制による省エネルギー・省CO2・省資源に繋がるため、環境保全に貢献すると考えられます。
不適切なリサイクルによる環境汚染
一方、現状では残念ながら不適切なリサイクルも行われています。環境省によると、一部のE-wasteについては、違法な不用品回収業者によって、国内で環境対策を講じないでスクラップ化され海外へ輸出されたり、リユースと偽って輸出され海外で不適切にスクラップ化されたりしてリサイクルされ、環境汚染を引き起こしています。E-wasteの不適切なリサイクルに伴う人の健康や環境への影響は、日本も輸出国として関わるアジア途上国等で、少なくとも2000年頃から国際問題となっています。2007年には、アメリカ化学会が発行している“Environmental Science & Technology”誌の環境ニュースで、“E-waste creates hot spots for POPs(E-wasteが残留性有機汚染物質のホットスポットを生じさせる)”と題して香港バプティスト大学のフィールド調査が取り上げられ、中国でのE-wasteリサイクルに起因する製品由来化学物質による汚染問題が明るみに出ました。
資源循環・廃棄物研究センターでは、日本からE-wasteや関連スクラップが輸出されている状況を鑑みて、アジア途上国で行われている不適切なE-wasteリサイクルの現状やリサイクル活動の周辺環境に与える影響を調査しています。日本から輸出されたE-wasteとそれに起因する環境汚染の関連性を定量的に把握することは困難ですが、日本も関わるアジア途上国でのE-wasteリサイクル問題の改善や解決に繋がる調査を目指しています。これまでに、タイ、フィリピン、インドネシアやベトナムなどを訪れ、リサイクルの現状を調査し、作業者への化学物質曝露実態を明らかにしてきました。ここでは、現在実施しているベトナムでの調査事例について紹介します。
ベトナムでのフィールド調査
私たちは、2011年1月にベトナム北部のハノイ市近郊でE-wasteリサイクル村(フンイエン省ミーハウ地区内の集落)の存在を確認し、愛媛大学やハノイ自然科学大学の研究者、リサイクル村の協力者のサポートのもと、2012年1月から当該地域を対象とした複数年計画のフィールド調査を実施しています。ここでは約250世帯1,000人程度が居住しており、主な産業として稲作に加え、E-wasteリサイクルが行われています。通年E-wasteリサイクルを実施している施設もあれば、二期作の合間にリサイクルを行う施設もみられ、施設の規模は様々ですが、E-wasteリサイクルは産業として根付いています。
現地でのヒアリングによると、ここでは、2000年頃から、パソコン、テレビ、ビデオプレーヤー、携帯電話などのE-wasteのリサイクルを行っており、収集、保管、解体、プラスチック、金属の分別回収やケーブル等の野焼きによる銅回収が行なわれています(写真1、写真2)。再資源化された金属やプラスチックは国内で再利用するだけでなく、中国へと輸出されているようです。中国で銅の需要が高まった時期にあわせて、銅回収を目的とした野焼きが活発化する状況も把握でき、輸出先の需要によってリサイクル活動が大きく変わることも調査から理解できました。フィールド調査では、日本語で説明書きされているE-wasteも散見され、アジア途上国でのE-wasteリサイクル問題と日本の関連性がみてとれました(写真3)。



リサイクル活動と製品由来化学物質の関係について
2012年1月の調査では、E-wasteリサイクルに伴う周辺環境影響を調査するため、当該地域の居住区とその周辺に広がる水田地帯の3.0 km×1.2 kmを対象として、水田あぜ道、E-wasteリサイクル施設近傍やケーブル等の野焼き現場から表層土壌を、村の中心部を流れる河川でE-wasteリサイクル施設の上流から下流にかけて河川堆積物を、それぞれ採取しました。輸入禁止品に該当するため農林水産大臣の輸入許可を取得して採取試料を日本に持ち帰り、E-wasteに関連する製品由来化学物質の分析を実施しました。
表層土壌と河川堆積物で得られた結果のうち、一例としてケーブル等に含まれる銅、電子基板のはんだに含まれる鉛、主要難燃剤としてパソコンやテレビに使用されているデカブロモジフェニルエーテル(BDE209)、不適切なリサイクルを通じて非意図的に生成するダイオキシン類縁化合物の分析結果を図1と図2に示します。いずれの化学物質についても、リサイクル施設近傍で採取した試料や、ケーブル等の野焼き現場周辺で採取した試料で高濃度に検出される事例がみられました。施設周辺では、部分的に解体されE-wasteが野ざらしで保管されていることが多く、銅や鉛、難燃剤が雨水による流出や剥離等を通じて環境中に移行していることが考えられます。野焼き現場周辺では銅が高い場所でダイオキシン類縁化合物も高い傾向であり、これはケーブル等の野焼きによって銅を触媒としてダイオキシン類が生成していることを示しているのでしょう。図示していませんが、施設周辺では、臭素化ダイオキシン類が塩素化ダイオキシン類よりも高くなっており、BDE209等の臭素系難燃剤に不純物として含まれる臭素化ダイオキシン類による汚染が明らかでした。


概して、製品由来化学物質は、E-wasteリサイクル活動域に集積しており、限定的な拡散であることがデータとして示されました。これらの結果については、ワークショップ(2013年1月に開催)を通じて現地協力者や行政組織に情報還元しており、今後も継続していく予定です。
これからのこと
現在、私たちは、2013年1月と2014年1月に同じ場所から同じ試料を採取して、リサイクル活動に伴う製品由来化合物の汚染実態を継続して調査すると共に、その傾向の短期的推移を評価しています。これに加え、大気降下物を捕集して汚染の拡散を評価することや、リサイクル活動によって環境中に移行した製品由来化学物質の人への曝露経路や曝露量の実態調査も行っています。これらベトナム調査の結果に基づいて、E-wasteリサイクルを通じた製品由来化学物質による汚染の構造を把握し、アジア途上国で持続可能なリサイクルを進めていくいための要点を整理して、E-wasteの環境上適正な管理の枠組み構築に貢献できるような取りまとめを行いたいと思います。
執筆者プロフィール

学生時代から強めのお酒を飲むのが好きです。そのお陰かアルコール耐性がつき、ベトナム調査でも大いに役立っています。現地協力者との昼食時には、ベトナムウォッカでの乾杯がつきものですが、ショットグラスを飲み干すほど、その後の調査がスムーズになりました。