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2013年8月30日

コンパクトシティ

特集 環境都市研究の先端と未来
【環境問題基礎知識】

松橋 啓介

コンパクトシティは、集約的な市街地を表す言葉として現在は幅広く使われています。

コンパクトシティのはじまり

 この言葉が初めてはっきりと使われたのは、1974年にダンツィクとサアティが著した『コンパクト・シティ』(日科技連)です。平面的に広がってしまった都市を上下方向に何層も積み重ね、さらに居住者の活動時間をずらすことにより、都市活動の飛躍的な効率化を目指した理想都市です。たとえば、200万人を直径約5.3 kmの巨大都市建造物に集積させることで、土地の占有量と移動にかかるエネルギーを節約することが可能です。今ではもっとも集約的なコンパクトシティの一つに相当します。

 この構想は、1961年に世界保健機関が健康的な人間的基本生活要求を満たす条件に掲げた「利便性」、「快適性」、「安全性」、「保健性」の4理念および「持続性」を同時に満たすことを目指した究極的な解の一つとして、その後の都市空間の考え方に大きな影響を与えました。しかし、十分に快適な住環境を立体的に確保できるとしたものの、自然の太陽光や地面に触れる機会が減少することなどが懸念され、高額の初期費用もかかることから、こうした構想がそのままの形で広く普及することはありませんでした。

コンパクトシティと交通エネルギー消費量

 その後、世界各地の都市を対象とした比較分析により、「人口密度が高い都市ではガソリン消費量が少ない」ということを実証的に示した1989年のNewman & Kenworthyによる研究が大きな注目を集めました。この研究の「省エネルギーのためには土地利用の高密度化と公共交通機関の整備誘導が必要」という結論をきっかけに、コンパクトシティとエネルギー消費量の関係について大きな議論が巻き起こりました。

 批判的な意見の主なものは、交通エネルギー消費量には、文化的・政治的な背景や都市の規模、都市内の人口の偏りおよび既存の交通ネットワーク等の多様な要因が関係しており、単純な高密度化がもっとも有効な手段とは言えないというものです。確かに、「クルマ」をステータスシンボルとする考え方や自動車依存型のライフスタイルが変わらない場合、あるいは職場の分散立地や住区デザイン等の土地利用パターンが変わらない場合等には、高密度化や公共交通機関整備を個別に行っても効果的ではありません。

一極集中型から拠点連携型へ

 そこで、より小さい地域に注目し、土地利用と交通とを統合的に計画することの重要性が再認識されるようになりました。具体的には、公共交通機関の整備にあわせて、駅や停留所の徒歩圏に集約的な市街地を形成します。公共交通機関で市街地を相互に連携させ、公共交通機関の利用を前提とする「公共交通指向型開発(TOD: Transit Oriented Development)」が新たなコンパクトシティの姿として浮かび上がってきました。これまでの「一極集中型」のコンパクトシティに対して、「拠点連携型」のコンパクトシティと言うことができます。

 拠点連携型のコンパクトシティのイメージの一例を図に示します。既存の土地利用を生かしつつ、多様な拠点を形成し、相互に公共交通機関で連携させるイメージです。たとえば、水運で発展した旧市街地(①)、鉄道駅側に発展した新市街地(②)、高速道路につながる環状道路脇に発展した近年の郊外型大型商業施設(③)を都市内交通機関で結び、各々を交通結節点としています。このうち、集客施設が多く立地するいずれかの交通結節点が中心市街地となります。都市内交通機関の停留所の徒歩圏は、日常生活圏となる集約的な住宅市街地を形成し、日常的な生活は自動車を利用せずに済ませることが可能です。郊外の農村コミュニティ(④)は、超小型電動モビリティを活用し、遠出をする際には郊外型大型商業施設の交通結節点(③)で公共交通機関に乗り換えます。また、集約拠点に都市内農地や自然地を隣接させることで、利便性と快適性の両立が容易になります。

 既存の土地利用を基本としつつ、多様な性格を持つ複数の地域が都市内交通機関につながって都市を構成するイメージを示すことで、幅広い規模の都市への適用や段階的な移行の検討に役に立つと考えられます。

図
図 拠点連携型のコンパクトシティのイメージ例
時代ごとの輸送手段に応じて発展した①旧市街地、②新市街地および③郊外型大型商業施設および④農村コミュニティといった既存の土地利用を生かしつつ、多様な拠点を形成し、相互に公共交通機関で連携させた。

コンパクトシティの実現策

 その一方で、コンパクトシティの実現は困難であるとする意見も依然としてあります。1990年代の日本では、地価高騰とガソリン価格低下を背景に、郊外開発とモータリゼーションが急速に進展しました。これに対して、1990年代後半以降、歩いて暮らせるにぎわいのあるまちを取り戻すべく、中心市街地の活性化に向けたさまざまな取り組みが行われていますが、時既に遅く、必ずしもうまく実現できていません。その一方で、市街地集約化のために、強制移転や大規模な建て替えに頼ることは、非現実的な対策です。

 今後、人口減少が全国的に進むと予測されています。その際に、先の基本生活要求を満たすためには、どこも同じように人口が減少していくことをただ傍観するのではなく、守り、残す地域を選ぶことが、まちづくりの重要な課題になります。これが、コンパクトシティの実現への第一歩です。

 われわれは、これまでの人口分布パターンの推移を基に、人口分布が今後集積する場合と分散する場合のパターンをシミュレーションしました。これらのパターン毎に、先の基本生活要求等を測る代表的な指標値を計算し、相互に比較する研究を進めています。望ましい人口分布を求め、長期的計画に位置付けた上で誘導を図ることを目指しています。

(まつはしけいすけ、社会環境システム研究センター環境経済・政策研究室長)

執筆者プロフィール

松橋 啓介

自宅の電力消費量を記録しています。2010年度と比べると、2011年度は約80%、2012年度は約86%の電力消費量でした。節電とLED導入と洗濯機買い替えが影響したようです。

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