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2013年8月30日

21世紀の環境都市研究スタイル

特集 環境都市研究の先端と未来

藤田 壮

 「都市環境」なのか「環境都市」なのか?という質問をいただくと、都市の中の環境のあり方を解析することが前者で、環境を価値の主軸において都市を考えるアプローチが後者であるとお答えしています。都市環境は20世紀の研究対象で、環境都市は21世紀の研究であると申し上げることもあります。都市にとって、産業や開発、あるいは生活が主役であった20世紀から、今世紀になって環境が都市の中心的な存在になったことが、環境都市研究を行う背景にあります。低炭素、資源循環、自然共生を志向する都市を具体的に実現するための研究貢献が求められています。そのためには、公害解決で有効であった排出源の規制や抑制の方策だけでは不十分となります。産業システム、土地利用や交通やエネルギーなどの都市のインフラ、環境に対する意識や行動システムなどを、総合的に視野に入れて、効率的な対策となる技術や政策、あるいはその組み合わせとしての「パッケージ」を見出す理論と手法を提供することが、21世紀の環境都市の研究に求められています。環境と調和する都市づくりに対する期待と要請は、日本でもアジアの諸国でも共通する、大きく切実なものとなっています。

 わが国においては、1990年代以降、エコシティやエコタウンなどについての政策や研究が進められてきました。これらの多くは環境が主ではない時代の政策であり、研究であったともいえます。21世紀に求められる「環境主流」時代の都市づくりでは、この時代の研究とは違う視点と視野と展開が求められています。低炭素都市や地域循環圏、生物多様な都市など、環境省をはじめとする各省庁や地方自治体で、環境と調和する都市の計画やデザインについての政策が実践されており、その政策設計や効果評価を支援する、研究からの実学としての貢献が求められています。さらに、近年は成長戦略の中にグリーン成長や環境イノベーションが登場して、環境価値を社会に取り込むことによる、持続的な成長を実現するプロトタイプとなる都市を、世界に先駆けて日本で実現することをめざす政策や事業も注目されています。それはスマート都市や、環境モデル都市、環境未来都市の事業として国内で具体化しつつあります。復旧から復興、創生に移行しつつある東日本大震災の被災地でも、環境改善を地域活性化の推進力とする方策を提案して実現することへの期待が、自治体や住民の方々からも具体的に寄せられつつあります。また、日本スタイルの環境都市を、アジアにおいて展開する政策や事業も、環境省をはじめとして各省庁による真剣な取り組みとして始まっています。

 先導研究「環境都市システム研究プログラム」では、国内都市や、中国やアジアの都市と連携して研究を進めています。都市を産業や住宅の単機能の複合体とみるのではなく、都市の総体で経済成長と環境への負担を軽減する理念とそれを実現する論理を明らかにして、環境と調和する都市を実現するための方法論づくりとその「社会実装」の研究を進めています。

 この特集では、都市や地域を環境調和型に転換する技術や社会制度を設計する研究や、それを評価予測する手法を開発する研究を紹介します。これらの研究は、21世紀の日本の社会基盤の更新や地域の活性化にむけての総合的な技術・政策体系を構築することに貢献するとともに、日本発信の「環境イノベーション」として国際的に展開する科学的根拠を提供することも目指しています。こうした研究開発が、日本の環境、都市関連技術の国際競争力を高めることにもつながることも期待しています。

 以降のページでは、珠坪室長が、環境調和型都市へ転換する具体的な技術開発研究の一例として、水処理技術の実証からタイ・バンコクの環境都市を描く研究を紹介します。松橋室長は環境都市の目指すべき姿の一つであるコンパクトシティを、藤井主任研究員は資源とエネルギーを有効活用するプロセスモデルから環境都市を計画する研究を、それぞれ、紹介します。田崎室長からは重点研究「循環型社会研究プログラム」のなかで地域循環システム研究について、資源循環の視点からの都市のあり方を紹介します。それぞれの報告が、新しい環境都市のあり方について多様な視点をご提供する機会となればと願っております。

(ふじたつよし、社会環境システム研究センター長 兼 環境都市システム研究プログラム研究総括)

執筆者プロフィール

筆者の藤田壮の顔写真

現場監督、企業、大学教員を経てからの研究所の暮らしは8年目で日々、新鮮な発見があります。4月からはセンター長として研究所とつくばでの時間が増えて、研究所の深みと厚みや、つくば地酒の魅力に感じ入る毎日を過ごしています。

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