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2012年8月31日

中国における水環境の現状を踏まえた分散型排水処理技術の取組みと提言

●特集 アジアの廃棄物循環●
【シリーズ重点研究プログラムの紹介: 「循環型社会研究プログラム」 から】
中核研究プロジェクト2: 「アジア地域に適した都市廃棄物の適正管理技術システムの構築」 より

徐 開欽

1.中国における水環境保全再生対策の重要性

 中国の水資源は一人当たり世界平均の四分の一に過ぎず、かつ、季節的・地域的分布がアンバランスであり、深刻な水不足問題を抱えています。また、経済成長によって加速された水質汚染が、水不足に拍車をかけています。さらに、水源地が汚染され水質基準を超過しているところが多く、かつ、重点流域での水環境汚染対策は全体として遅れています。湖沼等水域の富栄養化、河川水質の劣化といった水環境汚染問題が社会経済の持続的発展を制約し始めています。このような課題の解決には高度排水処理対策等が不可欠です。そこで、本プロジェクト研究のサブテーマ2「アジア地域に適した分散型有機性廃棄物・排水処理技術の開発」の研究取組みの一環として、中国を対象に水環境の現状、特に最近深刻化を増す湖沼・ダム湖のアオコ問題と都市排水処理の動向を踏まえ、農村地域の分散型排水処理システムの動向ならびに汚水処理システムに対する提言等を行うことを目指します。

2.河川・湖沼・ダム湖・海域における水環境の現状

 中国では、地表水水域の使用目的と保護目的に従い、最も軽いⅠ類から汚染が劣悪な劣Ⅴ類まで水域機能を段階的に分類されています。2010年現在、松花江、遼河、海河、黄河、淮河、長江(揚子江)、珠江など七つの水系(図1)に対して、水質観測の結果、59.9%がⅠ~Ⅲ類水質、23.7%はⅣ、Ⅴ類水質、残りの16.4%はⅤ類水質より悪い状況にあります(図2)。また、湖沼・ダム湖については、61.6%がV類水質基準を満たさず、水源地および景観用水としての価値を失ってきています。主な汚染物質は全窒素(TN)と全リン(TP)であります。太湖、滇池(デン池)と巣湖の水質汚染は最も深刻であります。これまで、二十年以上にわたって汚染防止施策を行ってきましたが、水質の改善が見られていません(写真1)。また、汚染が進んでいる海域として、遼東湾、渤海湾、長江河口、杭州湾、蘇州近海、珠江河口と沿海部の大都市に近い海域が挙げられています。

図1 中国における7大水系の位置の概要
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図2 中国における7大水系の水質類別の比較(2010年)
Ⅰ類:主に源流の水、国家自然保護区に適用/Ⅱ類:主に一級保護区の集中型生活飲用水の水源、貴重な魚類保護区、魚類エビの産卵場などに適用/Ⅲ類:主に二級保護区の集中型生活飲用水の水源、一般の魚類保護区及び水泳に適用/Ⅳ類:主に一般の工業用水区及び人に直接接触しない娯楽用水区に適用/Ⅴ類:主に農業用水区及び一般の景観に必要な水域に適用
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写真1 中国雲南省昆明市における滇池で発生したアオコの様子
(2011年7月20日 筆者撮影)

3.都市排水の処理動向と主な汚染物質の排出状況

 生活排水および産業排水排出量は、都市化の進行により、生活排水の排出量が増加する一方であり、1999年から生活排水量は産業排水量を上回りました。2010年の全国総排水量は617.3億トンに達しましたが、そのうち、産業排水量237.5億トン、生活排水量379.8億トンであり、化学的酸素要求量(COD)排出量は1238.1万トン、アンモニア排出量は120.3万トンでありました。  都市部下水処理インフラ整備は、1980年代から1990年代にかけて、本格的な取組みが始まり、下水処理場の数が急増し、処理能力が向上しました。また、2002年の「市政公用事業市場化」改革の実施以来、民間資本が広く認められ、国内および外資系企業が進出しはじめ、下水処理場数が著しく増加してきています。2007年に中国国家発展委員会、建設部、環境保護総局が共同発表した「全国都市部下水処理およびリサイクル施設建設“十一五”計画」によって各地での下水処理場の建設が加速し、2010年12月までに、2832箇所の下水処理場が稼動し、汚水処理率は77.4%に到達しました(図3)。しかし、技術面では、汚水処理の過程で排出された汚泥処理が不十分であります。

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図3 中国における都市下水の処理能力、処理場数と処理率の変遷

4.農村地域における分散型排水処理の特徴と課題

 農村部において、近年各地で下水処理施設普及のためのモデル事業が積極的に展開されていますが、全体から見ますと生活排水処理は低水準であります。県レベル以下の鎮、郷、村行政地域での下水処理率はさらに低く、下水を処理せずに排出するのは一般的なことであります。農村等地域の未処理な生活排水と処理不十分な産業排水が大量に河川や湖沼に放流され、水質汚濁の主な原因になっています。

 農村の環境問題は主に以下の3点に集約されます。(1)2010年1月公表の第1回全国汚染源調査によりますと、農村を汚染源とするCODが全体の43%、窒素が57%、リンが67%を占めていました。(2)農村の環境インフラ整備は非常に遅れており、61万以上の行政村のうち、97%の村では排水管渠や汚水処理システムを整備しておらず、生活排水処理を行っているのはわずか村全体の3%であります。農村部における汚水集水管渠の整備率は5%程度であります。(3)農村の環境管理の基盤、法律基準の整備が遅れ、監督管理能力は著しく不足しています。

 また、農村生活排水処理は3つの方式に分けられます。すなわち、(1)都市部の排水回収管渠を農村部まで延長・拡大し、都市と農村の排水処理を一体化する方式、(2)村全体を対象にした現地集合処理方式および(3)単独又は数軒の農家を対象にした分散型処理方式などであります。(1)の処理方式は、農村排水問題を解決するメリットを有していますが、管渠整備や運営管理のコストは莫大なため、都市部や人口集約度が極めて高い少数の農村地域に限って採用できます。一方、(2)、(3)の方式は、経済的であり、人口密度は低く、農家が分散的である農村部にとって好適で、農村生活排水処理の主流になると期待されています。しかし、上記3つの処理方式のいずれも、現在では、技術力、投資および運営管理費が保証されない課題に直面しています。このような現状を踏まえ、本プロジェクト研究を強化推進しているところです。

5.農村地域における分散型排水処理への研究取組みと提言

 農村地域の排水処理の現状とこれからの取組むべき課題に対し、以上の点を踏まえまして、本プロジェクト研究のサブテーマ2「アジア地域に適した分散型有機性廃棄物・排水処理技術の開発」において、省エネ低炭素型浄化槽技術、有機性廃棄物の家庭用バイオガス利用技術、人工湿地・植生土壌浄化・水耕栽培技術等生態工学技術の開発・評価等に取組んできています。これらの研究取組みについて、中国環境科学研究院や中国住宅・都市農村建設部農村汚水処理技術北方研究センター、上海交通大学、公益財団法人日本環境整備教育センター、東北大学、福島大学等の関連研究者と連携して推進しています。その中の、中国における有機性廃棄物の家庭用バイオガス利用技術は、家庭から排出される生ごみや人・家畜排泄物等の有機性廃棄物を小規模なタンクで微生物発酵し、回収したバイオガスを家庭でガスコンロやヒーターの燃料として使用するシステムです。その取り組みの詳細は、資源環境・廃棄物研究センターオンラインマガジン「環環」2012年5月号の記事をご参照ください。また、これらのハード的な技術の開発と導入と同時に、処理技術・設備の評価システム構築、水質基準作り、維持管理等のソフト的な技術の導入に関する提言を行っているところであります。その具体的提言は以下に示す通りであります。

1) 農村生活排水処理技術・設備の評価システムの構築

 農村部は広大で、各地の実情が大きく異なるため、応用できる生活排水処理技術や処理施設が多種多様であります。応用に先立って、これらの技術や設備に対し、その機能や効果を評価する必要があります。そのため、日本の浄化槽システムのように、性能評価システムを構築して整備促進すべきです。

2) 農村生活排水処理における適正な基準体系の構築

 農村生活排水処理の技術基準体系は、現在整備されていないため、これから迅速に設計から施工、運営管理までの一連の基準体系を構築すべきであります。まずは、構造基準・性能基準を制定し各地方の特性、すなわち、流域環境容量に応じて、さらに規制強化するために上乗せ基準を制定すべきです。

3) 農村生活排水処理に関する農村環境管理協会の設立

 農村生活排水処理産業の発展を推進させるため、外国の進んだ経験を学び、農村環境管理協会を設立すべきであります。これにより、業界関連企業間、機構間の交流が強化され、農村生活排水処理に関連する監督、管理、教育研修などが行われ、優秀な技術の普及応用も推進されるようになります。

4) 自治体の県規模モデル事業を通しての農村生活排水処理の持続可能な体制の構築

 農村生活排水処理モデル事業の展開は極めて重要といえます。農村排水処理に関連する政策法規、適宜技術および運営管理などを一体として実践し、排水処理の持続可能な体制を構築する必要があります。モデル事業を通して、農村排水処理に関する行政管理組織体系を確立させ、関連する産業チェーンや社会化したサービス体系を構築させ、同時に農村排水処理の責任分担や各利益関係者にインセンティブを与える奨励メカニズムを構築する必要があります。

6.総括および展望

 中国における経済および社会の持続可能な発展に対して、水不足と水環境汚染は、重要な制限因子となってきています。全国の主な河川、地下水の水質の悪化が進行しており、湖沼等閉鎖性水域のアオコ問題、農村地域の水質汚濁問題、水の消費量の急拡大、異常気象による旱魃(かんばつ)・水不足等が深刻であります。中国政府は水環境問題を重要視し、水質汚染物質の排出削減に国を挙げて取組んでいます。しかし、高度な経済成長を持続していくためには、都市生活排水処理、生態系修復、水質汚濁防止対策への取組みは今後も一層努力しなければなりません。水環境保全法規の整備、施策の実施とともに、水環境保全のための研究開発が積極的に進められ、水環境の顕著な改善がなされることを期待しています。特に、排水処理につきましては、これまで下水処理場の整備は都市部が中心でありましたが、広大な農村地域の分散型排水処理技術・システムの開発・整備および保全再生の政策等の強化が必要不可欠といえます。

(じょ かいきん、資源循環・廃棄物研究センター
環境修復再生技術研究室長)

執筆者プロフィール:

徐 開欽の写真

1984年10月に来日、東北大学の修士・博士課程を修了、同大学助手・助教授を経て、1997年9月から国立環境研究所主任研究員。2008年10月より環境修復再生技術研究室長。趣味は旅行・囲碁・卓球・水泳等。最近、研究所から約30km離れている霞ヶ浦湖畔にあるバイオ・エコエンジニアリング研究施設への往復や施設の老朽化、自分自身の老朽化に悩む日々を送っていますが、初心に帰って、微力ながら研究所の研究活動に少しでもお役に立てるよう頑張っていきたいと思います。どうぞよろしくご指導を賜りますようお願いいたします。

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