国民の不安を解消するための遺伝子組換えナタネ分布調査
研究をめぐって
世界の遺伝子組換え(GM)農作物の生産量は年々増加しています。近年ではアジアでの栽培が拡大しています。日本が輸入しているナタネのうち約80%程度が遺伝子組換えであると推定されています。ナタネは輸送途中にこぼれて道路沿いで生育しており、一部は河川敷に侵入しています。国立環境研究所では、除草剤耐性GMセイヨウナタネ(除草剤耐性ナタネ)の分布状況について毎年調査を行い、分布拡大による生物多様性への影響の有無を監視しています。
世界では
1996年に遺伝子組換え農作物の商業栽培が始まってから、今年で23年になります。国際アグリバイオ事業団ISAAA(The International Service for the Acquisition of Agri-biotech Applications)が毎年公表しているデータで見ると、2017年の段階で全世界における遺伝子組換え(GM)作物の栽培面積は約1億9000万ヘクタール(日本の国土面積の約5倍)となっており、2007年の約1.6倍に増加しています。この傾向は23年間継続しており、毎年500~600万ヘクタールずつ増加しています。栽培されている作物の性質でみると、除草剤耐性のものが47%、害虫抵抗性のものが12%、2つ以上の性質を併せ持つもの(スタック系統)が41%となっています。
主要な作物では、トウモロコシの32%、ダイズの77%、ワタの80%、セイヨウナタネの30%が遺伝子組換えとなっています。GM農作物を栽培している国は24カ国ですが、近年その分布に大きな変化がありました。EU加盟国のほとんどがGM農作物の栽培から撤退し、現在はポルトガルとスペインだけで栽培されています。その一方で中国、ベトナムなどアジアでの栽培が始まっています。
日本では
日本ではGM農作物の商業栽培は行われていませんが、飼料の供給を輸入に頼っているため、大量の農作物を輸入しています。輸入量は毎年、ワタが14万トン、ダイズが400万トン、トウモロコシ1500万トン、セイヨウナタネ200万トン以上となっています。このうちGMがどの程度含まれているかという統計はないため、GM農作物の輸入量を正確に調べることはできませんが、輸出国の栽培状況から推定して、ワタのほぼ全て、ダイズとセイヨウナタネは80%程度、トウモロコシも半分以上がGMであると考えられます。このうちセイヨウナタネは搾油用および飼料用として発芽可能な種子の状態で輸入されています。しかも他の3種と比べて寒さに強いため、容易に越冬することが可能です。
輸入港で陸揚げされたセイヨウナタネの種子は搾油工場や飼料工場まで陸上輸送で運ばれます。輸送の際の梱包状態によっては輸送中にこぼれ落ちて道路沿いや河川敷などで発芽します。輸入されているGMナタネは、生物多様性影響評価を経て、生物多様性に影響を生ずるおそれはないとされて承認されたものですが、国は、その使用等により生物多様性影響を生じていないことを確認するため、輸入港を含む周辺地域の除草剤耐性ナタネの分布を監視しています。
国立環境研究所では
2004年に農水省から「鹿島港に除草剤耐性ナタネが自生している」というプレスリリースがあり、国立環境研究所ではこの年から全国の港やその周辺における除草剤耐性ナタネの分布を毎年調査してきました。2008年度までは全国のセイヨウナタネ種子の輸入港を2つのグループに分け、隔年で調査を行いました。
その結果、12港湾のうち8つで除草剤耐性ナタネの自生が確認できましたが、ほとんどの港では自生数が少なく一過的なものでした。しかし、博多港、四日市港、鹿島港は自生数が飛び抜けて多く、しかも輸送道路沿いでは港から5km以上離れた場所でも自生が確認できました。この結果を受けて2009年度以降は調査の対象を上記の3港に絞り、密度の高い2009年度以降の詳細調査により、近年では博多港と鹿島港の周辺地域の除草剤耐性ナタネの自生は激減していることが確認されています。このように2008年度以降、国内の除草剤耐性ナタネの自生数はおしなべて減っていますが、四日市港周辺では、このような傾向は認められず、引き続き調査が必要と考えています。
市民団体の中には独自に調査を行っている団体もあり、このような団体から除草剤耐性ナタネと在来種の交雑体と思われる試料が送られてきます。国立環境研究所では、このような試料については無償で遺伝子分析を行ってきました。これまで10個体以上の遺伝子分析を行い、全て交雑体ではないことを確認しました。このような活動により国民の抱く「不安」に対して科学的なデータに基づく「安心」を提供しています。