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2017年3月13日

放射性物質汚染廃棄物のためのコンクリート容器について

福島第一原子力発電所事故により環境が汚染された結果、放射性物質に汚染した種々の廃棄物(放射性物質汚染廃棄物、以下、汚染廃棄物と省略)が集積・保管されていますが、汚染廃棄物の性状と保管や最終処分などの目的・用途ごとに保管施設に求められる要件が異なります。原子力発電所から発生する放射性廃棄物の処分については、原子力百科事典ATOMICA1に総括されています。これらの既往の知見に基づき、指定廃棄物や除染廃棄物の保管と処分の方法が検討されています。ここでは特に保管や処分のための容器に着目して、注意点を解説し、具体的な保管・処分の方策のあり方を紹介します。

原子力発電所から発生する低レベルの放射性廃棄物には、液体状や紛体状の廃棄物、また、金属などの固体状の廃棄物があります。それぞれセメントによりドラム缶内に固型化されてから処分されます。ドラム缶の種類には、通常の鋼製のもの、これに防錆のための樹脂ライニングを施したもの、遮蔽も兼ねたコンクリートライニング(通常の鉄筋コンクリートに加え、繊維強化樹脂含浸コンクリートもある)を施したもの、などがあります。セメント固型化したドラム缶は、六ケ所村に設置されたコンクリートピットなどに埋設処分されます。セメント固型化されたドラム缶は直ちに埋設処分されるわけではなく、一定期間の保管を要するため、ドラム缶自体の劣化を管理する必要もあります2

中間貯蔵施設に設置される廃棄物貯蔵施設でも、放射性セシウム濃度が10万Bq/kgを超える廃棄物に対しては、専用ドラム缶等が用いられることが提案されています3。このような比較的放射能濃度が高い汚染廃棄物には、除染土壌に加えて、廃棄物を焼却した際に発生する飛灰(焼却飛灰)があります。国立環境研究所では、特に放射能濃度が高い焼却飛灰の特性を考慮し、その処理・処分に、セメント・コンクリート技術を適用する研究を廃棄物、放射能、コンクリート工学の多面的観点から実施しています。ここでは、従来の廃棄物最終処分場の構造や放射性物質汚染廃棄物の特性等に関する各種知見・経験を有する研究者、及びコンクリート工学の専門家から構成される研究会(汚染廃棄物等最終処分場へのセメント・コンクリート技術適用に関する研究会)を設け、2015年2月20日には、安全・安心な最終処分場(長期管理施設)建設に関する検討を行った成果を「汚染焼却飛灰廃棄物等の最終処分場(遮断型構造)に用いるコンクリートに関する技術資料(第二報)」4として公開しました。

この技術資料では、焼却飛灰の特性を考慮したうえで、産業廃棄物の遮断型処分場相当の鉄筋コンクリート製の処分場への最終処分に加え、より小規模なコンクリート容器を用いた最終処分も議論しています。図14にその例を示します。特に一般廃棄物を焼却した際に発生する焼却飛灰には、多量の塩化物が含まれており、鉄の腐食の原因となります。このため、中間貯蔵施設で予定されている30年という長期にわたる保管には、腐食への配慮が必要となり、鋼製ドラム缶への防錆処理は必須と考えられます。一方、コンクリート容器とした場合、塩化物は容器コンクリート内部の鉄筋を腐食させると同時にコンクリートそのものを劣化させる可能性があります。この対策として、コンクリート容器内に防食シートを設置すること、防食シートの破損時の劣化を抑制するためにコンクリートをより耐久性の高いものとすることを技術資料では提案しています。

放射能レベルが8千Bq/kg以上の指定廃棄物は、セメント固型化した上で管理型処分場、または遮断型相当の処分場(長期管理施設)への処分、福島県内で10万Bq/kg以上のものは除染廃棄物と合わせて中間貯蔵施設内の廃棄物貯蔵施設に保管されることが予定されています。上記のコンクリート容器は従来の遮断型相当の最終処分場と同等の廃棄物を外部環境から遮断する性能を有しており、水密性の観点からは小型の遮断型最終処分場ともいえるものです。

可燃性廃棄物は焼却により減容化しますが、その際、放射性Csが焼却飛灰に濃縮するだけではなく、セメント・コンクリートの材料への影響の観点で重要な変化が生じます。その概要を図2にまとめます。焼却プロセスにおいては、発生する塩化水素ガスと亜硫酸ガスを中和するため、排ガス中に石灰を添加し、バグフィルターで塩化カルシウムと石膏として除去します。この二つの物質の特性がコンクリートの安定性に影響を及ぼします。従来、コンクリート工学においてこのような焼却灰とコンクリートとの相互作用は考慮されてきませんでした。そこで、この機構を考慮した焼却灰のセメント固型化5 、もしくはコンクリート施設(容器)での処分に必要な要素研究を行っています。

これら研究の成果として前述の技術資料4にまとめられています。また、コンクリート容器での処分に関して、国立環境研究所は、民間団体「コンクリート容器耐久性研究会」6と連携し、実際の放射能汚染した焼却飛灰をコンクリート容器に直接投入し、どのような現象が起きるかを2年半にわたる暴露実験7により検証してきました。図37に示すようなコンクリート容器内に湿潤状態にした焼却飛灰を腐食防護層なしに直接投入すると、普通ポルトランドセメントを用いた場合には、焼却飛灰との接触部分に膨張性鉱物が生成し、コンクリートが剥落する現象が認められました。また、この劣化はフライアッシュセメント(石炭灰を混合したセメント)を用いることで軽減できることがわかりました。国立環境研究所は、その他の各種の検討結果も総合的に議論し、同耐久性研究会による「コンクリート容器の技術要件」7の取りまとめを支援してきました。

福島県外の指定廃棄物の処分は立地選定が難しく未だ実現していませんが、中間貯蔵施設内には廃棄物貯蔵施設が建設され、最終的には遮断型相当を含めた何らかの最終処分施設が福島県外に建設されるものと考えられます。これらの施設の適切な設計・建設に資することができるように、今後も調査・研究活動を継続していきたいと思います。

図1 コンクリート容器を用いた最終処分場の例4

図2 焼却減容化とセメント・コンクリートの安定性の関係
図3 実汚染飛灰を用いたコンクリート容器の暴露試験7
(コンクリート容器耐久性研究会より転載・図提供)

参考文献

問い合わせ先:福島支部汚染廃棄物研究室 山田一夫主任研究員

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