ユーザー別ナビ |

  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2017年3月10日


海辺の生物も津波に「負げねぞ!」
—海産巻貝ホソウミニナでの研究成果

(文部科学省記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、宮城県政記者会、高知県教育記者クラブ同時配付)

平成29年3月9日(木)
高知大学 農林海洋科学部
        准教授:三浦 収
     特任研究員:西村 朋宏
国立研究開発法人 国立環境研究所
 地域環境研究センター
      主任研究員:金谷 弦
日本大学 生物資源科学部
        助教:中井 静子
東京大学 大気海洋研究所
        教授:小島 茂明
      特任研究員:伊藤 萌
東北大学 東北アジア研究センター
         教授:千葉 聡
東北大学 大学院生命科学研究科
       教授:占部 城太郎
         助教:牧野 渡

 東日本大震災に伴う大津波は、東北沿岸の広い範囲に大きな被害をもたらしました。高知大学・東北大学・国立環境研究所・日本大学・東京大学の合同研究チームは、海岸に生息する巻貝ホソウミニナ※1図1)への津波の影響を約10年間にわたり調査しました。その結果、仙台湾周辺の6つの干潟において、ホソウミニナの大多数が津波で死滅したにも関わらず、遺伝的な多様性には大きな変化がなかったことを突き止めました。遺伝的多様性※2は、生物の種が長期間存続していく上で欠かすことができない重要な要素です。こうした結果は、ホソウミニナが、大津波のような自然災害に対して高い頑強性を持つことを示しています。
 巨大津波が海岸動物の個体群構造(生息密度や体のサイズ)と遺伝的多様性に及ぼした影響を、震災前後のデータを比較して解き明かした研究は世界で初めてです。本研究成果は、2017年3月10日付で国際科学雑誌Scientific Reports電子版に掲載されました。本研究は、文部科学省東北マリンサイエンス拠点形成事業及び国立環境研究所が進めている災害環境マネジメント研究プログラムの一環として行われました。

【論文著者】Miura, O., Kanaya, G., Nakai, S., Itoh, H., Chiba, S., Makino, W., Nishimura, T., Kojima, S. and Urabe, J.

【論文タイトル】Ecological and genetic impact of the 2011 Tohoku Earthquake Tsunami on intertidal mud snails.

【公表雑誌】Scientific Reports (http://www.nature.com/articles/srep44375)

【公表日】イギリス時間 2017年3月10日(金)10時(オンライン公開)

図1.調査を行った干潟の1つ、宮城県東松島市潜ヶ浦(かつぎがうら)の津波後の風景(写真左側)と、津波を生き抜いたホソウミニナ(写真右側)。
2012年4月撮影。

◇内 容

1.背景

 東日本大震災にともなう大津波が東北地方を襲ってから、約6年の歳月が流れました。この間の研究の蓄積により、沿岸の生物もまた津波により大きな影響をうけたことが明らかにされてきました文献1~3。海岸地域では、生物の種数や個体数が大きく減少しました。個体数の減少は、生物種を単純に絶滅の危機にさらすだけでなく、環境変化や感染症への適応力の基盤となる遺伝的な多様性を減少させ、長期的な視点においても絶滅の危険性を高めます。しかしながら、今回のような大津波が生物種の遺伝的多様性にどのような影響を及ぼすかをしらべた研究はありませんでした。

2.方法

 本研究では、細胞の核の中にある遺伝情報(核DNA)の中に散在する単純反復配列(マイクロサテライトDNA※3)を解析することで、干潟に生息する巻き貝ホソウミニナの遺伝的多様性が、津波により減少したかどうかを検証しました。ホソウミニナは津波被災地の多くの干潟で優占する普通種であり、生息地間で遺伝的な分化も進んでいるため文献4、遺伝的多様性の局所的な変化がみえやすいと予想しました。調査は、仙台湾沿岸と周辺海域の6つの干潟において(図2)、2004年から2015年までの期間に行いました。

3.結果と考察

 津波により個体数が激減したにもかかわらず、ホソウミニナの遺伝的多様性は明確な減少をしていないことが明らかとなりました(図3)。ホソウミニナの個体数は、津波から約6年たった今も依然として震災前より少ない状態が続いていますが、2013年からは津波後に生まれた稚貝も現れ、少しずつ回復へと向かっています。まだ時間はかかりそうですが、近い将来、干潟一面にホソウミニナがいる津波前の風景を再び目にする日が来ることを確信しています。

 仙台湾沿岸には、約500-800年の周期で繰り返し大津波が打ち寄せてきたことが、地質学的研究により明らかになっています文献5。数百年という時間は、私たちの生活の中ではとほうもなく長い時間です。しかし、生物の「種」は通常、100万年以上もの長きにわたり存続しています。仮にホソウミニナという種が100万年存続してきたと仮定すると、今回のような大津波を1000回以上も乗り越えてきたことになります。たとえ個体数の減少があったとしても、遺伝的多様性は簡単には減少しないこと、これこそが海岸の生物において、津波を乗り越え、次世代へと命を繋ぎ、そして種を存続させる原動力になっているのかもしれません。

図2.10年にわたる継続調査を行った6つの干潟と干潟周辺で観測された津波の高さ。
仙台湾周辺の松川浦(まつかわうら;福島県相馬市)、鳥の海(とりのうみ;宮城県亘理町)、双観山(そうかんざん;宮城県松島町)、潜ヶ浦(かつぎがうら;宮城県東松島市)、万石浦(まんごくうら:宮城県石巻市)、長面浦(ながつらうら;宮城県石巻市)。
図3.津波によるホソウミニナの密度(a)および遺伝的多様性(b)への影響。

4.残された課題

 本研究により、2011年に発生した大津波の生物への影響の一端を明らかにすることができました。ホソウミニナが示した遺伝的多様性の頑強性は、津波、洪水、淡水化や高温といった多様なストレスにさらされる干潟という環境で海岸動物種が長期間存続していく上で、欠かすことができない重要な要素であることを示しています。しかし、もともと個体数が少ない絶滅危惧種や希少種の中には、津波後に干潟から姿を消し、いまだに戻ってこない種も確認されています。このような種に関しては、津波による遺伝的多様性の減少やそれにともなう種の絶滅が、今後実際に観察される可能性があります。海岸生物が大津波により受けた影響の全体像を把握するには、さらなる研究の蓄積が必要だと考えられます。

5.研究に関する問い合わせ

高知大学 農林海洋科学部
准教授 三浦 収(みうら おさむ)
TEL/FAX:088-864-6765 Email: miurao"at"kochi-u.ac.jp ("at"を@に変えて下さい)

国立研究開発法人 国立環境研究所 地域環境研究センター 海洋環境研究室
主任研究員 金谷 弦(かなや げん)
TEL:029-850-2590 E-mail: gen"at"nies.go.jp ("at"を@に変えて下さい)

東北大学 大学院生命科学研究科 
      教授  占部 城太郎(うらべ じょうたろう)
TEL:022-795-6681 E-mail: urabe”at”m.tohoku.ac.jp ("at"を@に変えて下さい)

◇用語解説

※1ホソウミニナBatillaria attramentaria(=B. cumingi)・・・日本国内では北海道から九州までの干潟に分布するウミニナ科の巻き貝。干潟上に高密度で生息する普通種。浮遊幼生期を持たない直達発生の巻き貝であり、日本各地で遺伝的な分化がすすんでいる文献4

※2遺伝的多様性・・・集団または種がどれだけ豊富な遺伝子の「型」を保有しているのかを表す指標。

※3マイクロサテライトDNA・・・1-6塩基程度の短い塩基配列が繰り返し現れるDNA領域。非常に高い変異性を示すため、遺伝的多様性の微量な変化の検出に有効。

◇関連する研究成果(本論文の著者に下線を付した)

1. Miura O, Sasaki Y, Chiba S (2012) Destruction of populations of Batillaria attramentaria (Caenogastropoda: Batillariidae) by tsunami waves of the 2011 Tohoku earthquake. J Molluscan Stud 78:377–380

2. Urabe J, Suzuki T, Nishita T, Makino W (2013) Immediate ecological impacts of the 2011 Tohoku earthquake tsunami on intertidal flat communities. PLOS ONE 8:e62779

3. Kanaya G, Suzuki T, Kikuchi E (2015) Impacts of the 2011 tsunami on sediment characteristics and macrozoobenthic assemblages in a shallow eutrophic lagoon, Sendai Bay, Japan. PLOS ONE 10: e0135125

4. Kojima S, Hayashi I, Kim D, Iijima A, Furota T (2004) Phylogeography of an intertidal direct-developing gastropod Batillaria cumingi around the Japanese Islands. Mar Ecol Prog Ser 276:161–172

5. Sawai Y, Namegaya Y, Okamura Y, Satake K, Shishikura M (2012) Challenges of anticipating the 2011 Tohoku earthquake and tsunami using coastal geology. Geophys Res Lett 39: L21309

◇研究助成

本研究は以下の助成研究・研究プロジェクトの一環として実施しました。
・文部科学省 東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)
・文部科学省 若手研究者の自立的研究環境整備促進事業
・国立環境研究所 災害環境マネジメント研究プログラム
・日本学術振興会 科学研究費助成事業(番号21770013、25840160、16K18606)
・稲盛財団 研究助成
・住友財団 環境研究助成
・伊藤科学振興会 伊藤科学研究助成金

関連新着情報

関連記事

関連研究者