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2021年6月30日

災害環境研究と地域協働の拠点としての
新たなスタート

【福島地域協働研究拠点の紹介】

木村 正伸

1.はじめに

 国立環境研究所福島支部が発足して、この4月でちょうど5年が経過しました。この4月から、当研究所が第5期中長期計画期間に入るのを機に、研究や社会貢献活動において地域のステークホルダーの皆様との連携・協働を一層進めるため、福島支部を「福島地域協働研究拠点」(以下、「福島拠点」という。)と名称を変え、新たなスタートを切ることとしました。

 これまでの歩みを振り返ると、当研究所は、2011年の東日本大震災の直後から、災害廃棄物や放射性物質に汚染された廃棄物の処理処分、放射性物質の環境動態・環境影響、被災地の復興まちづくり支援などの「災害環境研究」を進めてきました。こうした研究をさらに進めるため、2016年4月に福島県三春町の環境創造センター内に初めての地方組織として福島支部を開設し、同センターに拠点を置く、福島県環境創造センター、日本原子力研究開発機構(JAEA)と連携し、調査研究を行ってきました。また、研究成果を挙げることに加え、環境省、福島県内の地方自治体、関係機関・団体とも連携し、汚染廃棄物の適正処理などの環境回復に向けた取組への貢献、環境に配慮した復興まちづくりの支援など、研究成果の社会実装、社会貢献の面にも力を入れ、成果を挙げてきました。

2.福島拠点で進める災害環境研究について

 福島拠点では、この4月からの第5期中長期計画において、福島における環境復興へ着実に貢献するとともに、将来の災害に環境面から備えるため、「地域協働」をキーワードとして、つくば本部とも一体となって、災害環境研究を一層進めていきます(図1)。具体的な研究内容は次のとおりです。

(1)環境影響・修復研究
 原子力災害からの環境回復に向けた研究として、中間貯蔵施設に搬入された除去土壌等の減容化や再生利用ならびに県外最終処分に向けた技術開発や、豊富な地域資源であるものの、放射能に汚染された状態にある木質バイオマスや資源作物等を原料として、エネルギーとして安全に利活用するための技術開発を行います。また、同じく地域資源である山菜や野生キノコ、淡水魚といった自家採取自然食品に対する放射性セシウムによる汚染を低減させる手法の検討も含めた、採取や摂取に伴う被ばくリスクを軽減するための方策や、生息数の増加による獣害の影響が懸念されている、イノシシ等野生生物の管理手法の構築にも取り組みます。

(2)環境創生研究
 地域資源を活用した環境配慮型の復興まちづくり、地域創生を支援する研究として、地域が再生する過程を定量的に分析し、それに基づいた将来シナリオの構築手法、および復興が進む地域における環境に配慮したまちづくりの支援手法を開発し、実際に適用することを目指します。原子力災害の被災地の復興と持続可能な発展の支援を目標に研究を実施する予定です。

 また、浜通り12市町村を主な対象地域として、脱炭素も考慮した新たな地域社会システムの創生に資する取組として、原子力災害の影響を受けたバイオマス等の地域資源や生態系サービスを安全に利活用する技術の導入を、地域の特性やニーズの分析結果に基づいた地域の関係者との対話と協働によって目指します。

 さらに、2050年の脱炭素社会構築も念頭に置いた、浜通り地方の自治体の復興まちづくりや、福島県内における気候変動への適応策の実施を、研究面から支援する取組も重要な課題と位置付けています。

(3)災害環境管理研究
 将来の災害に備えた環境管理のための研究として、1.広域・巨大災害時に向けた地域の資源循環・廃棄物処理システム強靭化研究、2.緊急時に備えた化学物質のマネジメント戦略に関する研究を、つくば本部が中心となって実施し、災害環境レジリエンスの向上(強靭化)に貢献します。

第5期中長期計画における災害環境研究プログラムの構成図
図1 第5期中長期計画における災害環境研究プログラムの構成

3.地域協働の取組の強化について

 福島拠点では、地域のステークホルダーの方々との連携・協働の取組の強化として、研究活動やその成果を地域の多様なステークホルダーの方々に向けて情報発信するとともに、これらの方々が集う対話の場を創り出し、そこから新たな協働研究を展開させていきます。さらには、その成果も活用しながら、様々な地域の環境問題の克服に向けたステークホルダー間の目標の共有化を図り、問題解決に向けた具体的な取組の実施に対する支援も行っていきます。こうした活動を推進するため、福島拠点に新たに「地域協働推進室」を設置し、研究所と地域のステークホルダーの皆様との橋渡しをする役割を果たすこととしています。

 今回の組織変更と新たな中長期計画により、従来にも増して、ふくしまの環境回復、地域環境の創生を支援するとともに、将来起こりうる災害に環境面から備えた地域づくりにも貢献していく所存ですので、引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。

(きむら まさのぶ、福島地域協働研究拠点 拠点長)

執筆者プロフィール

筆者の木村正伸の写真

環境行政に二十数年携わり、国環研に来て三年、福島に来て二年。研究者ではないのに研究部門のリーダーとなり、立ち位置が難しいですが、研究者の皆さんのお世話にならぬよう、お世話をするよう、心がけています。自然、文化の魅力にあふれた福島の復興に少しでもお役に立てるよう頑張ります。

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