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2009年6月15日

研究最前線第10回「リサイクル法の見直しをめぐって」

 この4~5年間で、既存のリサイクル法(容器包装、家電、食品、建設、自動車の個別リサイクル法と資源有効利用促進法)のすべてが見直されてきています。この稿では、このうち一般になじみの深い家電リサイクル法を例に、主な論点と実態、リサイクルに関わる共通的な問題を検証します。

国際資源循環とリサイクル法

 各種のリサイクル法が制定された時期と現在とで、最も大きく変化したのは、「資源の流れ」です。これまでは廃棄物として国内で処理・処分されていたものが有用な資源として、国外に輸出されるようになりました。廃プラスチックやe-wasteと呼ばれる使用済みの電気電子製品などがその代表例です。リサイクル法制定時にはこれほどの規模での国際資源循環を想定しなかったので、リサイクル法のシステムと国際循環の実態との調整を図る検討や見直しが進められているところです。

 家電リサイクル法の見直しにおいては、この国際資源循環の流れを含め、家電リサイクル法システムに乗らないモノの流れとして「見えないフロー」が話題になりました。私たちの研究では4家電(テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機)やパソコン、自動車が使用済みとなった後のフロー推計を行う(図)とともに、推計手法の開発を行ってきました。

図:家電リサイクル法施工後における使用済み家電4品目のフロー推計結果

 ただし、このような推計を行うためには、販売店や古物商、処理業者などへの個別の調査を積み上げざるを得ず、毎年度の推計は難しいというのが実状です。リサイクルはモノの流れを適正化する方策の一つであり、モノの流れを把握することはさまざまな施策を講じる上での基礎情報となります。調査の負担をできるだけ小さくしつつも、モノの流れの情報を定期的に収集する体制を構築することが望まれます。また、モノの流れだけでなく、モノの種類、例えば、携帯電話やパソコンにどのような有用金属が含まれているかといったデータの整備も必要と考えられます。

不法投棄問題

 「見えないフロー」に関連して、家電リサイクル法の見直しで話題になったのが不法投棄の問題です。家電リサイクル法はリサイクル料金等の支払いが後払い制、すなわち廃棄時に最終保有者が支払う仕組みであり、不法投棄を助長するという見方です。ただ、これについては世の中で取りざたされるほどには深刻な状態ではないというのが私の考えです。品目ごとに見れば、エアコンのようにむしろ減少している品目もあります(表)。業者に取り外してもらうことが多いエアコンについては、業者が消費者にリサイクル料金を請求しやすくなったことなどの理由から、モノの流れが適正化したのではないかと解釈しています。一方、テレビのように明らかに増加した製品もありますが、最近では減少傾向にあります。また、4家電の不法投棄台数は全体の使用済み台数に対して1%程度です。

家電4品目の不法投棄発見台数の増加率(2000年度比)
  テレビ 冷蔵庫 洗濯機 エアコン 合計
2001年度 1.2 1.0 1.0 0.8 1.1
2002年度 1.5 1.2 1.2 0.8 1.3
2003年度 1.6 1.3 1.4 0.8 1.3
2004年度 1.6 1.3 1.4 0.7 1.3
2005年度 1.5 1.2 1.2 0.5 1.2
2006年度 1.4 1.2 1.1 0.3 1.1

前払い制の是非

 家電リサイクル法の見直しで残念だったことは、リサイクル費用等を前払い制にすることが見送られたことです。ただしこれについては、前払い制の具体的な内容が審議会で議論されなかったということで、やむを得ないとも感じています。審議会委員や関係者より、前払い制にすべきという提案はいくつも出されましたが、どのような前払い制にすべきかを明示したものは皆無でした。審議会の資料では3種類の前払い制が提示されていたので、そのうちどれが良いかぐらいは主張・議論されるべきでした。

循環型社会におけるリサイクル

 リサイクルは、埋め立て処分量を減らすという観点のみが注目されがちですが、単に末端処理としてリサイクルが進むだけでは十分ではありません。リサイクルや廃棄物処理において拡大生産者責任(EPR)の重要性が指摘されている理由の一つには、生産者が自ら製造する製品の設計改善を行い、製品ライフサイクル全体の最適化を行うということがあります。リサイクルや廃棄物処理といった後始末的な対策で過大な費用や環境負荷が生じないように、製造の段階から十分な考慮がされるべきということです。家電リサイクルにおいては、メーカーがリサイクルしやすい製品設計やプラスチックのリサイクル技術開発などに取り組んでおり、他国や他の品目のリサイクル制度と比べても順調に取り組みが進められていると評価できます。

 ところで、このような状況について現場の人と話をすると、「もっとリサイクルがもうかる仕組みを国がつくれば、さらに取り組みが進む」ということを指摘されます。これは一理あるのですが、もともと製品を売って利益を得ているわけですから、製品を世の中に出したことに対する一定の責任があり、国がそこまでのサポートをすることの正当性には疑問の余地があります。民と公の役割分担については、もう少し議論がされる必要があるでしょう。

リサイクルと温暖化対策の統合へ

 最後に、リサイクルと温暖化対策との関係について触れたいと思います。このテーマは今後真っ正面から議論されることになるでしょう。

 家電に関しては、省エネ家電の普及との調整です。冷蔵庫、エアコン、テレビの購入には国が補助をすることとなりましたが、省エネ製品を本来使われる年数よりも早く買い替える場合には、より多くの廃棄物が発生し、より多くのエネルギー消費が製造段階等で発生します。私も研究を進めているところですが、環境の面からいえば、エアコンの買い替えには使用頻度によっては、早期買い替えが好ましくないケースがありますし、大型テレビへの買い替えはさらに注意が必要です。エネルギー浪費型製品を長く使うことも好ましくありませんが、省エネ製品だからと安易に買い替えることには注意が必要です。

 「エコ」ということ国民の誤解を招かないように、低炭素社会に向けた取り組みと、循環型社会に向けた取り組みを統合的な視点で評価・推進することが必要です。

雑誌「グローバルネット」(地球・人間環境フォーラム発行)223号(2009年6月号)より引用

目次ページの写真は、家電の買い替えで処理が課題となる廃棄ブラウン管テレビなどのイメージ

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