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2020年5月1日

持続可能社会のためのまちとしくみの評価

特集 持続可能社会のためのまちとしくみの評価

松橋 啓介

 統合研究プログラム(持続可能社会を実現する統合的アプローチに関する研究プログラム)のプロジェクト3「環境社会実現のための政策評価研究」において、持続可能な社会の地域・生活の計画に関する研究を進めています。持続可能な社会を実現するためには、個人や企業がそれぞれに持続可能な生活や行動の実施に努めるという方策だけでは残念ながら不十分です。なぜなら、個人や企業はそれぞれに異なる価値を重視しているため、多くの主体(個人や企業)が足並みを揃えて十分に持続可能な生活や行動を実施することは簡単には期待できないからです。そのため、多くの主体が持続可能性の条件に適う生活や行動を自然に選択したくなるような「まち」や「しくみ」をつくることがより重要になります。まずは、そうした「まち」や「しくみ」の姿を明らかにすること、次に、「まち」や「しくみ」の将来像に合意を得ることが課題になると考えて、地域・生活の計画や政策・法制度の設計に関する研究を行っています。

 その一例として、移動手段の選択とまちづくり政策の選択の関係を分析した研究をごく簡単に紹介します。三大都市圏内外の20代から60代の男女3,000名を対象として2017年10月に実施したインターネットモニターアンケート調査によると、普段利用する移動手段としては自動車が40%強、公共交通が30%弱選ばれる一方、まちの政策として利便性を向上させてほしい移動手段としては公共交通がより多く40%強選ばれ、回答者が「市長になったと想定して」今後の政策を選択するときは公共交通がさらに多く50%超選ばれる結果でした。その際に、自らを政策主体とみることで、政策選択の理由が「いま自分が使っている移動手段だから」から「みんなが使いやすい移動手段だから」へと変化することが分かりました。また別の設問では、「経済的・社会的・環境的な持続可能性(長期的に望ましいこと)にすぐれた移動手段を、それ以外の移動手段よりも優遇する政策が提案され、住民投票でその賛否が問われているとします。この政策について、あなたは支持しますか。」と聞かれた際に、支持するを選ぶ理由には大きく二つあり、普段の生活で社会的に公正であることなどを重視する人はまちづくりには長期的な視点が大事だから賛成する傾向がある一方、普段の生活で自分の損得を重視する人は自分の生活に関係するから賛成する傾向があることが分かりました。これらを踏まえて、持続可能なまちやしくみをつくる政策が多くの主体に選択されるように提案し、政策の実現を介して持続可能な生活や行動が自然に選択される社会とすることを目指しています。

 このテーマに関する話題として、本特集では、サブテーマ1「持続可能な社会と地域・生活のデザインに関する研究」のうち、地域・生活に関する環境負荷の把握についての研究を研究ノート「家庭CO2の市町村別推計:地域特性に応じた対策の推進に向けて」で紹介します。また、サブテーマ2「持続可能社会実現に向けた政策・法制度研究」のうち、環境-経済-社会および個人や企業の関係の可視化に関する研究の一端を研究プログラム紹介「環境-経済-社会の相互メカニズムの図解」で紹介します。また、環境配慮型農産物の生産と消費を促進するしくみについて環境問題基礎知識「農業と環境保全」で解説します。

(まつはし けいすけ、社会環境システム研究センター 環境政策研究室 室長)

執筆者プロフィール

筆者の松橋 啓介の写真

2018年夏に浅草に転居しました。就職してから5軒目、就職前をあわせると14軒目の住まいです。おおむね、前半は地方都市の戸建て、後半は大都市圏郊外の集合住宅でした。環境が変わるたびに、あたらしいまちを歩く刺激を楽しんでいます。

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