対流圏オゾンの増加─良いオゾンと悪いオゾン─
コラム1
地球をとりまく大気は複数の層から成り、地上から高度約15㎞までの層を対流圏、その上の約50㎞までの層を成層圏と呼びます。成層圏で太陽からの紫外線(波長240nm以下)が酸素に吸収されて発生するオゾン層は生物にとって有害な紫外線(波長240-315nm)を吸収する働きがあることから、私たちが生きていくために必要な「良い」オゾンといえます。一方、対流圏で発生するオゾンは、生物にダメージを与える「悪い」オゾンです。このように、同じオゾンでも、存在する高度により、良いものと悪いものの二面性を持っているのです(図1A)。
対流圏でオゾンが発生する仕組みは、工場や車から出る二酸化窒素に紫外線が当たると一酸化窒素と酸素原子に分解され、この酸素原子が酸素分子に結合して、酸素原子3個からなるオゾンができると考えられています。さらに、ここに炭化水素があると、過酸化ラジカルが生成します。すると、もう1つの生成物である一酸化窒素が酸化されて二酸化窒素になる反応が進むため、これに紫外線が当たると最初に述べた反応が起こります。このように二酸化窒素、炭化水素、紫外線の間で反応が繰り返されることにより、オゾンが爆発的に生成し続けることになります(図1B)。
オゾンを含む光化学オキシダントは、濃度が短時間で変化するため、その濃度の表し方として1時間ごとの平均値(1時間値)が用いられます。光化学オキシダントの環境基準は1時間値が0.06ppm以下であることと定められていますが、達成率は平成27年度で0%と極めて低い状況です。1日で最も高かった1時間値の年平均値は、全国で観測の始まった1976年から1980年頃にかけていったん低下したものの増加に転じ、その後もゆっくりと増加し続けています(図1C)。その原因は完全に明らかになっていませんが、アジア大陸からの越境汚染の影響が原因の1つとして考えられています。詳しくは環境儀第33号「越境大気汚染の日本への影響」を参照ください。