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2019年2月15日

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妊婦の血中水銀及びセレン濃度と児の出生時体格との関連: 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)での研究成果

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、北海道教育庁記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会同時配付)

平成31年2月15日(金)
国立大学法人北海道大学
エコチル調査北海道ユニットセンター
  センター長     岸 玲子
  特任講師      小林澄貴
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
  コアセンター長代行 新田裕史
  室長        中山祥嗣
 

環境省及び国立研究開発法人国立環境研究所(以下「国立環境研究所」という。)では、国立大学法人北海道大学(以下「北海道大学」という。)をはじめ全国15大学・機関(ユニットセンター)とともに、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因を明らかにし、次世代の子どもたちが健やかに育つことのできる環境の実現を図ることを目的として、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を行っています。

今回、平成28年4月にデータが確定した約2万人の妊婦の血中水銀及びセレンと出生時体格との関連を検討しました。血中セレン濃度が最も低い群の中で、血中水銀濃度と出生時体格との関連を調べたところ、血中水銀濃度は出生体重及び出生頭囲と関連が認められたもののわずかでした。妊婦の血中セレン濃度と出生時体格との間に関連は認められませんでした。

本成果は、平成31年2月9日に環境科学の国際専門誌である「Environment International」に論文掲載されました。

エコチル調査により、引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待されます。

1.発表のポイント

・ エコチル調査の全国データを用いて、国立環境研究所と北海道大学等が共同で、妊婦の血中水銀及びセレン濃度と出生時体格との関連を調べました。
・ 血中水銀濃度と出生時体格(出生体重、出生身長、出生頭囲、出生胸囲など)との関連について、出生頭囲との関連が認められました。血中セレン濃度が最も低い群の中で、血中水銀濃度と出生時体格との関連を調べたところ、血中水銀濃度は出生体重及び出生頭囲と関連が認められたもののわずかでした。
・ 妊婦の血中セレン濃度と出生時体格との間に関連は認められませんでした。

*本研究は環境省の予算により実施しました。本発表の内容は、すべて著者の意見であり、環境省の見解ではありません。

2.エコチル調査とは

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下「エコチル調査」という。)は、化学物質などの環境要因が子どもの健康にどのように影響するのかを明らかにし、「子どもたちが安心して健やかに育つ環境をつくる」ことを目的に平成22年度(2010年度)に開始された大規模かつ長期にわたる疫学調査です。妊娠期の母親の体内にいる胎児期から出生後の子どもが13歳になるまでの健康状態や生活習慣を平成44年度(2032年度)まで追跡して調べることとしています。

エコチル調査は、研究の中心機関として国立環境研究所にコアセンターを、医療面からサポートを受けるために国立成育医療研究センターにメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された北海道大学を含む15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターをそれぞれ設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。

3.研究の背景

出生時体格とは、子どもが生まれる時点の体格のことです。出生時体格(出生体重、出生身長、出生頭囲、出生胸囲など)は、胎児期の子どもの発育の指標でもあります。出生時体格が小さすぎる場合と大きすぎる場合に、生後に肥満、メタボリックシンドロームが発症しやすくなる可能性があることが指摘されています。

出生時体格が小さくなる原因として様々な要因がありますが、これまでに、海外の研究グループによる疫学研究では、胎児期のメチル水銀ばく露※1が出生時体格に影響する可能性が指摘されています。わが国では、メチル水銀の主要ばく露源は魚介類であると言われています(多く蓄積している魚種と少ない魚種があります)。セレンは人にとって必須微量元素であり、主な摂取源は食事です。これまでに、動物実験からセレンは酸化ストレスを防ぐ可能性が指摘されています。また、セレンはその他有害金属と相互作用し、互いの毒性を軽減させることも報告されています。しかし、妊婦の水銀とセレンが出生時体格に及ぼす影響の報告はほとんどなく、妊婦の水銀及びセレンばく露と出生時体格との関連はよくわかっていません。

われわれは、妊婦の血中水銀とセレン濃度が子どもの出生時体格(出生体重、出生身長、出生頭囲、出生胸囲など)に影響しているのではないかと考え、疫学的手法を使って検討しました。

4.研究の方法

本研究では、平成28年4月に確定された妊婦約10万人のデータ「出産時全固定データ」と、妊娠中期(22週以降)から後期までに採取した妊婦の血液のうち、ランダムに選んだ約2万人分の妊婦の血中金属類元素濃度データ「金属類第一次固定データ」(平成29年4月確定)を使用しました。

このうち、血中金属類元素データ及び出生時体格のデータがそろった17998人の妊婦のうち、死産、流産、及び双子以上の場合、さらに関連因子と考えたものに何らかの欠測データがある人を除いた15444人を解析対象としました。

出生時体格の関連因子として考えられている妊婦の年齢、妊娠前の妊婦の体格指標、出産歴、妊娠中の喫煙習慣、妊娠中の飲酒習慣、教育歴、世帯収入、在胎週数、子どもの性別、さらに出産様式(経腟分娩・帝王切開)を考慮した研究デザインを用い、血中水銀及びセレン濃度(水銀とセレン濃度はそれぞれ四分位※2に4分割したもの)と出生時体格との関連について重回帰分析※3あるいはロジスティック回帰分析※3を使って検討しました。さらに血中水銀濃度と出生時体格との関連については血中セレン濃度別で分けた解析も行いました。

5.主な結果

最も水銀濃度が低い妊婦集団(3848人)と比較して、最も水銀濃度が高い妊婦集団(3868人)から生まれた子どもは出生体重が13 g(95%信頼区間※4: −28, 3)小さかったものの、統計学的に有意な関連はありませんでした。また、最もセレン濃度が高い妊婦集団(3928人)と比較して、最もセレン濃度が低い妊婦集団(3818人)から生まれた子どもは出生体重が9 g(95%信頼区間: −6, 25)大きかったものの、統計学的に有意な関連はありませんでした。

頭囲に関しては、最も水銀濃度が低い妊婦集団と比較して、最も水銀濃度が高い妊婦集団から生まれた子どもは出生頭囲が0.076 cm(95%信頼区間:0.014, 0.137)小さいという結果でした。

妊婦のセレン濃度で分け、水銀濃度と出生時体格との関連を検討したところ、最もセレン濃度が低い妊婦集団の中で、最も水銀濃度が低い妊婦集団(1423人)と比較して、最も水銀濃度が高い妊婦集団(474人)から生まれた子どもは出生体重が41 g(95%信頼区間: 5, 75)小さく、出生頭囲が0.156 cm(95%信頼区間: 0.017, 0.294)小さいという結果でした。

6.考察及び今後の展望

血中水銀濃度と出生時体格との関連について、血中セレン濃度でわけない全数での解析では出生頭囲との関連が認められました。さらに、最もセレン濃度が低い妊婦集団の中で、血中水銀濃度と出生体重及び出生頭囲との関連が認められました。

血中水銀濃度と出生時体格との関連について、血中セレン濃度を考慮したとき、妊婦のセレン濃度が最も低い妊婦集団の中で、血中水銀濃度が最も低い妊婦集団と比較して最も高い妊婦集団で出生体重は41gの減少、出生頭囲は0.156 cmの減少が認められました。平均出生体重は3025.9 g(標準偏差 405.3 g)、出生頭囲は31.8 cm(標準偏差 1.8 cm)であり、検出された出生体重や出生頭囲の減少量は、その1%前後の変化量でした。現時点では、出生児の健康状態が危惧されるような差ではないと考えられます。

本研究はわが国で妊婦の血中水銀及びセレン濃度と出生時体格との関連を調べた報告です。エコチル調査では、これらの金属以外の環境要因、遺伝要因、および社会経済要因も調べています。引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待されます。

なお、本研究に示された見解は著者ら自らのものであり、環境省の見解ではありません。

7.用語解説

※1 ばく露:私たちが化学物質などの環境にさらされることを言います。身体の表面から中に入ってくることは吸収などと呼び、ばく露とは区別しています。

※2 四分位:データの値を小さいほうから順番に並べたとき、4等分する位置の値を四分位数といいます。本研究の最も低い濃度の妊婦集団は、4等分した最も小さい濃度の妊婦集団を指します。また最も高い濃度の妊婦集団は、4等分した最も高い濃度の妊婦集団を指します。

※3 重回帰分析・ロジスティック回帰分析:ある一つの現象を、複数の要因によって説明する統計モデルを用いた解析手法です。例えば、出生時体格を、妊婦の血中水銀濃度、妊婦の体格指標、及び生活習慣などの要因で説明し、それぞれがどのくらい出生時体格の変化を説明しているかが分かります。

※4 95%信頼区間:調査の精度を表す指標で、精度が高ければ狭い範囲に、精度が低ければ広い範囲になります。

8.発表論文

題名:Association of blood mercury levels during pregnancy with infant birth size by blood selenium levels in the Japan Environment and Children’s Study: a prospective birth cohort

著者名(英語):Sumitaka Kobayashi1, Reiko Kishi2, Yasuaki Saijo3, Yoshiya Ito4, Koji Oba5, Atsuko Araki6, Chihiro Miyashita7, Sachiko Itoh8, Machiko Minatoya9, Keiko Yamazaki10, Yu Ait Bamai11, Tosiya Sato12, Shin Yamazaki13, Shoji F. Nakayama14, Tomohiko Isobe15, Hiroshi Nitta16, and the Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group17

1小林澄貴:北海道大学
2岸玲子:北海道大学
3西條泰明:旭川医科大学
4伊藤善也:日本赤十字北海道看護大学
5大庭幸治:東京大学
6荒木敦子:北海道大学
7宮下ちひろ:北海道大学
8伊藤佐智子:北海道大学
9湊屋街子:北海道大学
10山﨑圭子:北海道大学
11アイツバマイゆふ:北海道大学
12佐藤俊哉:京都大学
13山崎新:国立環境研究所
14中山祥嗣:国立環境研究所
15磯部友彦:国立環境研究所
16新田裕史:国立環境研究所
17JECSグループ:コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長

掲載誌:Environment International
DOI: 10.1016/j.envint.2019.01.051

9.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所エコチル調査コアセンター
室長 中山祥嗣
305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
電話:029-850-2786
E-mail:jecscore(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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