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2000年3月31日

微生物を用いた汚染土壌・地下水の浄化機構に関する研究(特別研究)
平成8〜10年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-31-2000

1.はじめに

表紙
SR-31-2000 [1.5MB]

 全国各地の土壌・地下水中からトリクロロエチレン(TCE)および1,1,1­トリクロロエタン(TCA)等の揮発性有機塩素化合物や重金属等が検出され大きな問題となっている。浄化対策として様々な物理化学的手法が用いられてはいるが、地下水の揚水・ばっ気法、真空抽出法はコストが高く、また根本的な分解・除去法ではない。現在、これらの問題点を解決できる新しい技術として、微生物機能を活用し、汚染環境を修復するバイオレメディエーション技術が注目されているが、技術開発がほとんど進んでいないのが現状である。そこで、本研究では、バイオレメディエーション技術の基礎となる浄化微生物の開発と浄化機構の解明並びに浄化機能の試験法の開発を行い、これらの成果に基づいて、バイオレメディエーション技術のリスク評価手法を開発することとした。
 このため、まず全国各地の土壌より、浄化能を有する微生物を探索・分離するとともに、浄化能の定量化を行った。ついで、汚染物質分解酵素の構造と性質を解明するとともに、分解酵素遺伝子を単離し、遺伝子組換えにより、分解能を強化した微生物を創生した。また、環境中での浄化微生物の挙動を把握するため、浄化微生物の迅速・高感度検出法を開発した。さらに、自然環境を模擬したフラスコ・カラム土壌系や土壌シミュレーター系さらにバイオリアクターを用いて、微生物の持つ浄化機能の定量化試験方法を開発した。これらの結果をふまえ、汚染した土壌·地下水のバイオレメディエーション技術のリスク評価手法を提案した。

2.研究成果の概要

(1)土壌・地下水浄化微生物の開発と浄化機構の解明に関する研究

 1)浄化微生物の探索と浄化特性の解明
 全国各地の土壌より、エタンを炭素源として微生物を増殖させ、TCE及びTCAを分解するTA5株とTA27株を分離した。TA5株は、テトラクロロエチレン(PCE)汚染土壌から、またTA27株はクリーニング工場周辺土壌から分離された。16SrRNA遺伝子のDNA塩基配列の解析を行った結果、いずれもMycobacteriumに属する新種であった。TA27株は高濃度のTCE(50mg/l)及びTCA(150mg/l)を分解する能力を有し、TCEとTCAで同時に汚染している土壌の浄化に有効であると考えられた。
 また、PCEを分解する細菌の分離を試みた。その結果、クリーニング工場排水口側溝の土壌からPCEを分解する混合微生物系を得た。本混合微生物系の継代培養により、160mg/lの高濃度PCEを分解することが可能となった。
 2) 浄化酵素及び浄化遺伝子の単離と諸性質の解明
 メタン酸化細菌Methylocystis sp. M株のTCE分解能が、M株の可溶性メタンモノオキシゲナーゼ(sMMO)と呼ばれるメタン酸化酵素によることをつきとめた。さらにその機能を解析するため、その遺伝子のDNA塩基配列を決定した。その結果、sMMO遺伝子は全長6kbで、mmoX、mmoY、mmoB、mmoZ、mmoCおよび機能不明なorfYの遺伝子群で構成されていることが認められた。図1に示すようなM株の有する複雑な生物機能によりTCEが分解されていることを明らかとした。
 3)浄化機能強化型微生物の作成
 merオペロンと呼ばれている水銀化合物分解酵素遺伝子群を組み込んだ、組換えプラスミドpSR134を作成し、これを種々の微生物に導入し、水銀浄化能を有する組換え体を作成した。さらに、merオペロンを2つ連結させ(タンデム化)水銀化合物分解能の向上を試みた。遺伝子組換えによりmerオペロンをタンデム化させた組換え体の水銀除去活性を調べた結果、タンデム化が水銀浄化能の強化に有効であることが示された。
 4)浄化微生物の検出法の開発
 水銀浄化菌の検出・定量法の開発を行った。遺伝子組換えにより作成した組換え水銀浄化菌のmerオペロンを標的としてPCR法で検出する手法の開発を試みた。検出条件の検討を行った結果、100細胞までの検出が可能となった。さらに感度を上げるため、再度PCRを行ったところ(ダブルPCR)、検出限界は1細胞まで向上した。本法が水銀浄化菌の標的DNAを迅速に感度よく検出・定量できる方法であることが示された。
 TCE分解菌Methylocystis sp. M株の検出・定量法の開発を行った。M株のTCE分解に関与するsMMO遺伝子の塩基配列の解析結果から、M株のみを検出できるPCR条件を検討した。その結果

図1 メタン酸化細菌M株のトリクロロエチレン分解酵素(sMMO)及びsMMO遺伝子

(2)微生物浄化機能の試験方法の開発に関する研究

 1)フラスコ・カラム土壌系による浄化機能の試験方法の開発
 小型のガラス容器を用いてM株の飽和および不飽和土壌中でのTCEの分解能の評価を行った。M株の添加濃度を高くするにつれ分解速度は上昇した。50mg/lのTCEでも分解が可能であることが判明し、汚染土壌の浄化に有用であることが判明した。次いで、汚染土壌を充てんした内径3cm、長さ40cm、内容量280mlのステンレスカラムを用いて分解試験を行った。TCE 1ppmに調整した現場地下水を下部より通水し、流出水のTCE濃度が一定になった後に、M株1.4×109、2.8×109、2.8×1010菌数をそれぞれのカラムに接種した。メタン、酵素、窒素、リン、TCEを添加した地下水を70ml/dayの流速で通水し、流入・流出水のTCE、メタン、メタン酸化細菌数の測定を行った。TCEは M株を添加した系で2日目から分解が認められ、M株の添加量の増大により分解量は増大した。16日目で2.8×109菌数のとき40%のTCE分解率が得られ、現場への適応性が示唆された。
 2)土壌シミュレーターによる浄化機能の試験方法の開発
 土壌シミュレーターを用いて、土壌中におけるM株の挙動および生態系への影響を検討した(図2)。屋内ライシメーター(60W×45D×50Hcm)、屋外ライシメーター(80W×57D×50Hcm)に黒ボク土壌を充填し、表層から10cmまでの土壌が約108菌数/g乾土になるようM株を添加した。表層では、7日後に1/5〜1/10に減少したが、7日目以後は107菌数/g乾土のオーダーで一定となった(図3)。10〜30cmの深さには、28日後に102〜104菌数/g乾土が検出された。M株は比較的土壌中での生残性が高い微生物であると考えられた。
 土壌微生物数の変動を測定した結果、一般細菌は106〜107、グラム陰性菌は104〜105、糸状菌は104菌数/g乾土のオーダーで検出され、M株の接種による影響および屋内外の相違は認められなかった。また、呼吸活性に及ぼすM株の添加の影響はほとんど認められなかったが、フォスファターゼ活性、β−グルコシダーゼ活性においてM株添加により活性の一時的な増大が認められた。
 3)バイオリアクターによる浄化機能の試験方法の開発
 merオペロンを導入した組換え水銀浄化菌を用いて水銀除去実験を行った。本菌株は水銀イオン(Hg+2)を金属水銀(HgO)に還元気化して水銀を除去する能力を有している。微生物による水銀汚染環境の浄化能を評価するために、気化した金属水銀を強制的に系外に排除するための通気システム及び排出された空気中の金属水銀の回収装置を備えたバイオリアクターシステムを設計した(図4)。このシステムを用いて水銀を添加した河川水、海水から水銀除去を試みたところ、河川水からは約45%、海水からは約90%の水銀除去が認められた(図5)。ろ過河川水からは約90%以上の水銀が除去されたことから、自然水中の他の生物との相互作用あるいは懸濁物質により水銀除去が妨害されることが示唆された。さらに、土壌からの水銀除去を試みた結果、添加した水銀の約20%を除去するにとどまり、土壌粒子に吸着した水銀を遊離させることが重要であることが認められた。
 4)バイオレメディエーション技術のリスク評価手法の開発
 バイオテクノロジーの生態系への影響を評価するための、一般細菌、糸状菌、呼吸活性、各種土壌酵素活性を評価する試験方法を提案し、M株を用いた場合のデータを作成した。これらの成果は、1999年3月に作成された環境庁の地下水汚染の浄化を目的とするバイオレメディエーションのガイドラインに反映された。

図2 土壌シミュレータによるM株の挙動及び生態系への影響
図3 土壌シミュレータを用いた土壌中におけるM株の挙動
図4 水銀除法・回収バイオリアクターシステム
図5 海水及び河川水中からの水銀除法

3.今後の検討課題

 今回、水銀化合物及びTCE分解微生物を開発し、室内レベルでの浄化効果を明らかにするとともにこれら有用微生物の安全性評価の試験法を確立することができた。今後は、小規模の野外現場において、室内レベルと同様な項目について浄化効果と安全性を評価し、バイオレメディエーション技術の実施における安全性を確保する方法を開発する必要がある。

〔担当者連絡先〕
国立環境研究所
地域環境研究グループ
矢木修身 Tel 0298-50-2542, Fax 0298-50-2571
岩崎一弘 Tel 0298-50-2407, Fax 0298-50-2571

用語説明

  • バイオレメディエーション
     生物の働きにより環境汚染を浄化する技術。栄養分の添加など汚染現場の生物活性を高めるバイオスティミュレーションと汚染現場以外から生物を導入し、その分解・除去能力を利用するバイオオーグメンティーションに大別される。
  • DNA塩基配列
     全ての生命現象の遺伝情報は、その本体であるDNAのアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)と呼ばれる4種類の塩基の配列によっ て暗号化されている。従って有害物質の分解等の生物の有する機能を解明するためには、DNA塩基配列の解析は必須である。
  • オペロン
     微生物の有害物質分解・除去等の生物反応に関連する一連のタンパク質を発現させる遺伝子群。反応に必要な遺伝子が連続して存在している。
  • プラスミド
     多くの生物の細胞内に見られ、ゲノム(生存に必須の遺伝子、染色体)とは別に、独立して複製する能力を持つ環状DNA。
  • PCR
     ポリメラーゼチェインリアクション。遺伝子の特定のDNA配列を繰り返し複製させる技術で、微量の標的DNAを100万倍程度まで増やすことができる。

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