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2019年2月21日

共同発表機関のロゴマーク
妊婦の血中マンガン濃度と児の出生時体格の関連について: 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)での研究成果

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、千葉県政記者クラブ同時配布)

平成31年2月21日(木)
国立大学法人千葉大学予防医学センター
エコチル調査千葉ユニットセンター
  助教        山本緑
  センター長     森千里
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
  コアセンター長代行 新田裕史
  室長        中山祥嗣
 

   環境省及び国立研究開発法人国立環境研究所(以下「国立環境研究所」という。)では、国立大学法人千葉大学(以下「千葉大学」という。)をはじめ全国15大学・機関(ユニットセンター)とともに、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因を明らかにし、次世代の子どもたちが健やかに育つことのできる環境の実現を図ることを目的として、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を行っています。

   今回、平成28年4月にデータが確定した約2万人の妊婦と出生児のデータを分析した結果、血中マンガン濃度と新生児の出生時体重及び頭囲との関連が認められました。

   本成果は平成31年2月8日に環境保健の国際専門誌である「Environmental Research」に掲載されました。

   エコチル調査により、引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待されます。

1.発表のポイント

・ 国立環境研究所と千葉大学が共同で、妊婦の血中マンガン濃度と新生児の出生時体格との関連を調べました。
・ 妊婦の血中マンガン濃度が低い場合と高い場合に、男児の出生体重の減少が認められました。
・ 妊婦を血中マンガン濃度により4つのグループ(Q1~Q4)に分けて比較すると、濃度が低いグループ(Q1)や高いグループ(Q4)はやや高いグループ(Q3)に比べて、男児の新生児がSGA※1(在胎週数に見合う標準的な出生体重に比べて小さく生まれた状態)となるリスクが高いことが示されました。
・ 女児の出生体重と妊婦の血中マンガン濃度との関連は認められませんでした。
・ 男女児ともに、妊婦の血中マンガン濃度が低くなると、わずかに出生時の頭囲が減少することが示されました。

*本研究は環境省の予算(子どもの健康と環境に関する全国調査)により実施しました。本発表の内容は、すべて著者らの意見であり、環境省の見解ではありません。

2.エコチル調査とは

   子どもの健康と環境に関する全国調査(以下「エコチル調査」という。)は、化学物質などの環境要因が子どもの健康にどのように影響するのかを明らかにし、「子どもたちが安心して健やかに育つ環境をつくる」ことを目的に平成22年度(2010年度)に開始された大規模かつ長期にわたる疫学調査です。妊娠期の母親の体内にいる胎児期から出生後の子どもが13歳になるまでの健康状態や生活習慣を平成44年度(2032年度)まで追跡して調べることとしています。

   エコチル調査は、研究の中心機関として国立環境研究所にコアセンターを、医療面からサポートを受けるために国立成育医療研究センターにメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された千葉大学を含む15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターをそれぞれ設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。

3.研究の背景

   小さく生まれた赤ちゃんは、生後の疾患や成長後の慢性疾患のリスクが高くなることが指摘されています。エコチル調査では子どもの健康の一つの要素として、胎児の成長に関わる要因を調べる研究を進めています。

   マンガンは人に必須な微量金属です。多くの食品に含まれ、体内の酵素の働きや骨の形成に関わっています。胎児の成長にも必要な栄養素です。一方、体内に多く取り込まれると神経毒性を示すことがあります。

   これまでの海外の研究により、出産時の母親の血中マンガン濃度が出生体重と関連することが報告されています。妊娠中に体内に取り込まれたマンガンと胎児の成長との関わりを明らかにするためには、より多くの妊婦について血中マンガン濃度を測定する研究が必要ですが、これまでこのような研究はなく、妊娠中の血中マンガン濃度と新生児の体格との関連はよくわかっていませんでした。

4.研究の内容

   本研究は、妊娠中の母親の血中マンガン濃度と、新生児の出生時の体重、身長、頭囲との関連について、解析を行いました。解析には、妊娠中の血中マンガン濃度を測定した母親と単胎(双子や三つ子でない)新生児16,473組のデータを使用しました。出生時の体格にかかわるさまざまな要因の影響を取り除くための統計学的な手法を用いて分析を実施しました。

1)妊婦の血中マンガン濃度と出生時の体格との関連

   男児の出生体重は妊娠中の血中マンガン濃度19 µg/Lで最も多く、マンガン濃度が低値あるいは高値では出生体重の減少が認められました(図1)。女児の出生体重は、妊婦の血中マンガン濃度との関連は見られませんでした。

妊婦の血中マンガン濃度と男児の出生体重との関係を表した図
図1 妊婦の血中マンガン濃度と男児の出生体重との関係
   実線は出生体重の推計値、点線は95%信頼区間※3、横軸上の縦線は一人一人の測定値を示しています。
   男児の出生体重は、妊婦の血中マンガン濃度19 µg/L付近で最も多く、低濃度、高濃度では出生体重が減少しました。

   出生時の頭囲は男女児ともに、妊娠中の血中マンガン濃度が低値になるとわずかに減少する傾向が認められました。血中マンガン濃度と出生時の身長との関連は見られませんでした。

   マンガンの影響は、妊娠時期により異なる可能性があるため、妊娠第2期(14~27週)の血中マンガン濃度を測定したグループと妊娠第3期(28~40週)の濃度を測定したグループに分けての分析も行いました。その結果、妊娠第3期の血中マンガン濃度が低値あるいは高値の場合にのみ男児の出生体重の減少が認められ、妊娠第2期の血中マンガン濃では男女児とも出生体重との関連は認められませんでした。

2) 妊婦の血中マンガン濃度とSGA児出生リスクとの関連

   SGAはsmall-for-gestational-ageの略で、新生児の出生体重が、在胎週数に見合う標準的な出生体重に比べて小さく生れてくることを指します。在胎週数毎のグループで100人中小さいほうから10番目以内に入る場合にSGAとみなされます。血中マンガン濃度を低い順にQ1~Q4の4つのグループに分け、SGAの新生児が生まれるリスクを比較しました。

   男児では、妊婦の血中マンガン濃度が最も低いグループ(Q1)で、やや高いグループ(Q3)群と比較してSGA児が生まれるリスクが1.4倍高くなりました(図2左)。女児のSGA児が生まれるリスクは、妊婦の血中マンガン濃度との関連は見られませんでした。

   妊娠時期別の分析では、妊娠第3期の血中マンガン濃度が最も高いグループ(Q4)で、やや高いグループ(Q3)と比較して男児のSGA児が生まれるリスクが1.6倍高くなりました(図2右)。妊娠第2期のマンガン濃度とSGA児が生まれるリスクとの関連は男女児とも認められませんでした。

図2 妊婦の血中マンガン濃度別に見た男児のSGA児が生まれるリスク

妊婦の血中マンガン濃度別に見た男児のSGA児が生まれるリスクを表した図
グループごとのSGA児の割合を表した表

5.考察および今後の展望

   本研究では、日本国内の妊婦約1万6千人について測定を行いましたが、血中マンガン濃度は4.3~44.5 µg/L(中央値※416.2 µg/L)で、過去の論文で報告された濃度と比較して、特に高い値は見られませんでした。血中マンガン濃度の低値や高値がどのような原因により生じたのかは、本研究ではわかりません。マンガンはさまざまな食品に含まれ、通常の食生活では欠乏しないと言われていますが、マンガンの血中濃度が低い場合は、食事からのマンガンの摂取量が少ないことが考えられます。一方、消化管にはマンガンの吸収を調節する仕組みがあるため、マンガンを多く含む飲食物をたくさん摂取しても、それによって血中マンガン濃度が高くなるとは限りません。鉄の摂取量が少ない場合には血中マンガン濃度が高くなる傾向があります。また、大気中に浮遊する物質を吸い込むことにより、マンガンが体内に吸収されることがあります。なお、国内でも海外でも、マンガンの血中濃度の基準値は定められていません。

   本研究では、妊娠28週以降の血中マンガン濃度が低値あるいは高値の場合に、男児の出生時体重が減少し、SGA児が生まれるリスクが高くなることが示されました。妊婦が体内に取り込むマンガンが少なくても多くても胎児の成長が抑制される可能性がありますが、その仕組みはまだ明らかになっていません。マンガンは胎盤を保護する酵素の成分であることから、胎児に栄養を供給する胎盤の機能に影響している可能性があります。この影響は男児のみに認められましたが、男女で差が生じた原因については、まだわかっていません。また、出生児の体格が、その後の健康や発達とどのように関連するかについては、今後さらに研究が必要です。

エコチル調査では、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因を明らかにするため、金属以外の環境因子、社会経済的因子、精神的肉体的ストレス、遺伝的要因についても調べています。

6.用語解説

※1 SGA:small-for-gestational-ageの略で、新生児の出生体重が、在胎週数に見合う標準的な出生体重に比べて小さい状態を指します。在胎週数毎のグループで100人中小さいほうから10番目以内に入る場合にSGAとみなされます。

※2 オッズ比:ある現象の起こりやすさを2つの群で比較して示した値です。例えば、基準とするグループでのSGA児が生まれる割合と比較して、あるグループではSGA児の生まれやすさ(リスク)が何倍になるかを示します。

※3 95%信頼区間:調査の精度を表す指標で、精度が高ければ狭い範囲に、低ければ広い範囲となります。

※4 中央値:50%の人がそれ以下となり、残りの50%の人がそれ以上になる値です。

7.発表論文

論文題名:Association between Blood Manganese Level during Pregnancy and Birth Size: the Japan Environment and Children’s Study (JECS)

著者名:Midori Yamamoto1, Kenichi Sakurai1, Akifumi Eguchi1, Shin Yamazaki2, Shoji F. Nakayama2, Tomohiko Isobe2, Ayano Takeuchi3, Tosiya Sato4, Akira Hata1, Chisato Mori1, Hiroshi Nitta2 and the Japan Environment and Children’s Study Group5

1山本 緑、櫻井 健一、江口 哲史、羽田 明、森 千里:千葉大学
2山崎 新、中山 祥嗣、磯部 友彦、新田裕史:国立環境研究所
3竹内文乃:慶應義塾大学
4佐藤 俊哉:京都大学
5JECSグループ:コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長(2018年12月現在)

掲載誌:Environmental Research
DOI: 10.1016/j.envres.2019.02.007

8.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所エコチル調査コアセンター
室長 中山祥嗣
305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
電話:029-850-2786
E-mail:jecscore(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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