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2018年11月12日

妊娠期間中母親血中カドミウム及び鉛と妊娠糖尿病との関連について:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)における研究

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、名古屋市政記者クラブ、名古屋教育医療記者会同時配布)

平成30年11月12日(月)
国立研究開発法人 国立環境研究所
エコチル調査コアセンター 室長 中山祥嗣
コアセンター長代行 新田裕史
共同研究員 小栗朋子
(現:国立研究開発法人産業技術総合研究所
   安全科学研究部門 主任研究員)

公立大学法人名古屋市立大学
エコチル調査愛知ユニットセンターセンター長 上島通浩
 

   環境省及び国立研究開発法人国立環境研究所(以下「国立環境研究所」という。)では、公立大学法人名古屋市立大学(以下「名古屋市立大学」という。)をはじめ全国15大学・機関(ユニットセンター)ともに、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因を明らかにし、次世代の子どもたちが健やかに育つことのできる環境の実現を図ることを目的として、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を行っています。

   今回、平成28年4月にデータが確定した約2万人の母親の血中カドミウム及び鉛と妊娠糖尿病との関連を調べた結果、両者には関連が認められませんでした。また、従来の報告と同様に、母親の高齢、肥満、過去に妊娠糖尿病にかかった経験があることは、妊娠糖尿病の予測因子であることが確認されました。

   本成果は、平成30年10月30日に環境保健の国際専門誌である「International Archives of Occupational and Environmental Health」に掲載されました。

1.発表のポイント

・国立環境研究所と名古屋市立大学が共同で、妊婦の血中カドミウム及び鉛と妊娠糖尿病の関連を調べました。
・妊婦の血中カドミウム及び鉛と妊娠糖尿病との間に関連は認められませんでした。この研究は妊婦のカドミウム及び鉛ばく露と妊娠糖尿病の関連を調べた初めての報告です。
・従来の報告と同様に、母親の高齢、肥満、過去に妊娠糖尿病にかかった経験があることは妊娠糖尿病の予測因子でした。

本研究は環境省の予算により実施しました。本発表の内容は、すべて著者の意見であり、環境省の見解ではありません。

2.研究の背景

   子どもの健康と環境に関する全国調査(以下「エコチル調査」という。)は、環境が子どもの健康にどのように影響するのかを明らかにし、子どもたちが安心して健やかに育つ環境をつくることを目的に、平成22年度(2010年度)に開始された大規模かつ長期に渡る出生コホート※2調査です。胎児期から小児期の環境因子へのばく露※1が、子どもの健康と成長にどのように影響するかを、参加する子どもが13歳になるまで追跡調査します。調査期間は5年間のデータ解析期間を含み、平成44年度(2032年度)までを予定しています。

   エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医療面からサポートを受けるためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。

   妊娠糖尿病とは、妊娠期間中に初めて発見・発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常のことです。妊娠糖尿病を発症することで、妊娠期間中の母親や子どもに対して様々な合併症を生じさせるリスクが増加します。さらに出産後も、母親や生まれた子どもの両方に対して、2型糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームが発症しやすくなる可能性があることが指摘されます。

   糖代謝異常の原因として様々な要因がありますが、近年、海外の研究グループによる疫学研究では、カドミウムや鉛ばく露により糖尿病を引き起こす可能性や、動物実験では、カドミウムや鉛ばく露により高血糖や糖代謝異常を引き起こす可能性が指摘されています。しかしながら、妊娠中の糖代謝異常である妊娠糖尿病については報告がなく、カドミウムや鉛ばく露と妊娠糖尿病との関係性はよくわかっていません。

   われわれは、カドミウムや鉛ばく露がすい臓の炎症や肝臓の糖代謝に影響しているという仮説があることから、妊婦のカドミウム及び鉛ばく露と妊娠糖尿病が関係するのではないかと考えて、疫学的に検討しました。

3.研究内容と成果

   本研究では、平成28年4月に確定された妊娠期間中の母親10万人のデータ「出産時全固定データ」と、妊娠22週から28週に採取した母親の血液のうち、最初の年度に測定された約2万人分の母親の血中金属類元素濃度データ「金属類第一次固定データ(平成29年4月確定)」を使用しました。

   このうち、子ども一人を妊娠した母親で、血中金属類元素濃度データ及び妊娠糖尿病の診断データがそろった17,718名のうち、1型及び2型糖尿病に以前かかったことがある方、糖代謝に関与する薬剤を使用して治療中の方など、環境要因とは別の要因による糖代謝異常をもった方763名を除き、16,955名を解析対象としました。

   本研究では、こうして得られた16,955名の金属類元素濃度データ及び妊娠糖尿病の診断データを用いて、妊婦の血中カドミウム及び鉛濃度と妊娠糖尿病との関連について統計解析を行いました。

   妊娠糖尿病のリスク因子※3と考えられている、母親の年齢、妊娠前の体格指標、過去に妊娠糖尿病にかかった経験の有無、現在の妊娠高血圧症候群発症の有無、さらに喫煙習慣を考慮した研究デザインを用い、妊娠糖尿病発症の有無と、血中カドミウム及び鉛濃度(カドミウムは0.5 ng/gごと、鉛は5 ng/gごとに4分割したもの)、これらの関係性についてロジスティック回帰分析※4を行いました。

   母親の出産経験の有無(初産、経産)で分け、それぞれの群について、ロジスティック回帰分析を行ったところ、血中カドミウム濃度及び鉛濃度の両方を考慮したモデルでは、初産の血中カドミウム濃度についてのオッズ比※5は0.76(95%信頼区間※60.28–2.08)、鉛濃度については2.51(95%信頼区間0.72–8.72)、経産の血中カドミウム濃度についてのオッズ比は0.64(95%信頼区間0.29–1.44)、鉛濃度については0.31(95%信頼区間0.04–2.29)であり、妊娠糖尿病発症との間に統計的に有意な関係は認められませんでした。またカドミウム及び鉛濃度それぞれを別々に解析したモデルも同様に、初産及び経産ともに妊婦の血中カドミウム及び鉛濃度と、妊娠糖尿病発症との間に統計的に有意な関係は認められませんでした。

   経産の群における母親の年齢についてのオッズ比は1.08(95%信頼区間1.05–1.11)、妊娠前の体格指標については5.10(95%信頼区間2.97–8.78)、過去に妊娠糖尿病にかかった経験の有無については7.75(95%信頼区間3.66–16.4)、現在の妊娠高血圧症候群発症の有無については2.25(95%信頼区間1.22–4.15)、喫煙習慣については2.29(1.00–5.24)であり、母親の高齢、肥満、過去に妊娠糖尿病にかかった経験ありで、妊娠糖尿病発症との間に統計的に有意な関係は認められました。これは初産の群でも同様の傾向を示しました。

   これまでカドミウムや鉛ばく露と妊娠糖尿病との関係性については報告がされていません。また糖尿病発症に影響するかどうかについても、まだほとんど疫学研究による検証がされておらず、数少ない既往報告においてはカドミウムや鉛ばく露と糖尿病発症の関係性は一貫していないことから、よくわかっていません。

   本研究では妊娠糖尿病発症の有無は主治医からの報告に基づき、血糖やインスリンの個々の濃度測定値は解析していないため、妊娠糖尿病発症に至っていない軽度の糖代謝異常との関係やそのメカニズムに関しては明らかにすることができません。今後、様々な研究が行われ、これらの点に関して解明されることが期待されます。

   カドミウムや鉛ばく露がすい臓の炎症や肝臓の糖代謝に影響しているという仮説があることから、本研究では妊婦のカドミウム及び鉛ばく露と妊娠糖尿病が関係するかどうかについて検証を行いました。妊娠糖尿病のリスク因子には、母親の高齢、肥満、過去に妊娠糖尿病にかかった経験のあることが指摘されています。本研究の結果は、母親の高齢、妊娠前の肥満、過去に妊娠糖尿病にかかった経験があることが、妊娠糖尿病発症と関係することを示しており、妊娠糖尿病発症に関与する要因を再確認する結果でした。

   本研究は妊婦のカドミウム及び鉛ばく露と妊娠糖尿病の関連を調べた初めての報告です。エコチル調査では、血中カドミウムや鉛濃度以外の環境要因、社会経済的要因、遺伝的要因についても調べています。エコチル調査では、今回の調査結果を踏まえつつ、引き続きさまざまな環境要因、社会経済的要因、遺伝的要因などと子どもの健康との関係を総合的に解析していく予定です。

4.用語解説

※1 ばく露:われわれが化学物質などの環境にさらされることをいいます。体の表面がさらされることをばく露といい、そこから体の中に入ってくることは吸収などと呼び、ばく露とは区別しています。

※2 出生コホート:子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期のばく露が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかを調査します。大人になるまで追跡する例もあります。

※3 リスク因子:ある病気を引き起こす因子、ある病気に付加的にはたらく因子のことを指します。多くの疾病は、一般に単一の原因では起こりません。体質にさまざまな因子が複合して発症すると考えられています。その個々の因子をリスク因子と呼んでいます。

※4 ロジスティック回帰分析:一つの現象を、複数の要因によって説明する統計モデルを用いた解析手法です。例えば、妊娠糖尿病へのかかりやすさを、母親の健康・性質や生活習慣などの要因で説明し、それぞれがどのぐらい妊娠糖尿病へのかかりやすさを説明しているかが分かります。

※5 オッズ比:ある現象の起こりやすさを示した統計的な尺度です。例えば、オッズ比が1とは、妊娠糖尿病へのかかりやすさはそれぞれの群で同じということであり、1より大きいと、妊娠糖尿病へのかかりやすさがある群で高いことを意味し、1より小さいと、ある群で妊娠糖尿病にかかりにくいことを意味します。

※6 95%信頼区間:同じ調査を100回行えば、確率的に95回程度の頻度で「真の値がこの範囲の間にある」という結果が得られることを示す統計用語です。ここではオッズ比の真の値が入る範囲を数値(下限値と上限値)で表現しています。

5.発表論文

題名:Associations between Maternal Blood Cadmium and Lead Concentrations and Gestational Diabetes Mellitus in the Japan Environment and Children’s Study

著者名:Tomoko Oguri1, Takashi Ebara2, Shoji F. Nakayama3, Mayumi Sugiura-Ogasawara4, Michihiro Kamijima5, and the Japan Environment and Children’s Study Group6

1小栗朋子:国立環境研究所(現:産業技術総合研究所)
2榎原 毅:名古屋市立大学
3杉浦真弓:名古屋市立大学
4上島通浩:名古屋市立大学
5中山祥嗣:国立環境研究所
6JECSグループ:コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長(2018年4月現在)

掲載誌:International Archives of Occupational and Environmental Health

6.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所エコチル調査コアセンター
室長 中山祥嗣
305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
E-mail:jecs-ord(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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