「自然環境保全研究分野」の研究について
論評
安野 正之
熱帯における森林の更新・再生には,土壌環境の特性とその荒廃のしやすさ,さらに種子の供給不足,稚樹の生育の条件の悪さのため,500年,場合によっては1000年の時間を要するといわれている。それゆえ,北方の針葉樹林以上に,熱帯における森林減少が問題となる。現在,環境をできるだけ壊さないで有用樹のみの伐採が試みられてはいるが,熱帯林生態系の最も重要な特性は種の多様性である。何故高い多様性を保持しているか現在まだ解明されていない。熱帯林に生物の種類が多いということはその相互関係の多様さ,言いかえると相互の依存性の高いことを意味している。したがって熱帯林の消失はそこに生息する多くの野生生物の消滅をもたらすことになる。この研究サブグループは森林減少・砂漠化研究チームと野生生物保全研究チームが担当し,前者は主として植物生態学の立場から,後者は主として動物生態学の立場で研究を行う。上記熱帯林生態系の問題に取り組むためには両チームの協力が必要である。特にこれらから求められるのは機能生態学である。生態系の維持機構にそこに生存する動植物がどのように係わっているかを,明らかにしていかねばならない。
砂漠は極限の環境の一つで,その生態系は熱帯降雨林の対称に位置している。砂漠化地域における人為による植生退行の過程の解析,逆に植生による環境形成の解析が主要な研究課題である。
(やすの まさゆき,自然環境保全研究担当上席研究官)
目次
- 国立環境研究所の発足に寄せて巻頭言
- 嵐に向かって翔べ論評
- 国立環境研究所組織の紹介論評
- 新たな研究所における研究企画の役割論評
- 国立環境研究所記念式典を挙行所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介、報告
- 研究支援体制の役割論評
- 地球史,人類史の中での地球環境研究 −地球環境研究グループの発足にあたって−論評
- 「環境保全対策分野」の発足に当たって論評
- 「環境リスク評価分野」の発足に当たって論評
- 社会環境システム部とは論評
- 化学と環境と論評
- 環境健康部の役割論評
- 基盤研究部門としての大気圏環境部論評
- 水・土壌・地下環境の保全をめざして論評
- 生物関連研究の新たな体制論評
- 環境情報のセンターを目指して論評
- 地球環境研究センターの任務 —地球環境の保全に向けて全体像の構築を—論評
- 環境研修センターの紹介論評
- 第13回 研究発表会、特別講演会報告所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介、報告
- 編集後記