国立環境研究所組織の紹介
論評
小泉 明
本年7月1日より,「国立公害研究所」が「国立環境研究所」として全面改組された。環境庁企画調整局に新たに地球環境問題についての総合調整を行う地球環境部が設置され,国立公害研究所においても「地球環境問題」に取り組む体制の整備が主要課題となった。設立以来16年以上を経過して,次に述べるような研究所を取り巻く情勢の変化に対応するため,外部の学識経験者からのご提言をいただきながら,2年にわたる準備期間を経て抜本的な組織改正が実施された。
まず,外的な要因として,環境研究に対する社会・行政ニーズに大きな変化が見られ,新たに地球環境問題,有害化学物質による環境汚染問題,自然環境保全問題への対応が強く求められるようになっている。また,従来からの公害問題についても,要因の複雑化等に伴ってその対処が困難になりつつある。これらの新しい問題に対して有効な対応策を講じていく上で,自然科学分野から社会科学分野にわたる広範な研究者の連携によって,より一層学際的視野に立った総合的な科学的知見の集約が必要とされている。
一方,研究所の内部的要因として,国立公害研究所においては,多分野の研究者を擁して研究能力の蓄積を進めてきた結果,新たなニーズも踏まえた環境研究の中枢を担いうる中堅の研究者が数多く育ってきている。従って,これらの中堅研究者の研究実績及び能力を十分発揮できる研究体制が必要となってきた。
以上のような,環境研究に対するニーズへの積極的対応,研究業務の活性化の両面を実現するため,以下を主な内容とする組織改正が行われた。(1)研究組織として,従来の専門分野別の部室制のみの体制を改め,社会ニーズに対応したプロジェクト研究を行う総合研究部門(地球環境研究グループ及び地域環境研究グループを設置する。)とシーズ創出等や総合研究部門の支援のための研究を行う基盤研究部門(6部)を設置し,併せてその中で自然環境保全に関する研究を推進する。(2)環境保全に関するデータ,資料等の収集,解析及び提供を行うための環境情報センターを新設する。(3)地球環境研究センター(平成2年10月発足予定)を新設し,客員・併任の研究員等を主体とした総合的な地球環境研究の推進,地球環境モニタリングの実施,データベース等の提供等を行う。(4)公害研修所を統合し,環境研修センターとする。今後の研究運営については,総合研究部門において,オゾン層破壊,地球温暖化現象解明,都市大気保全,湖沼保全等といった社会ニーズに即した個別課題毎に研究チームを設置し,プロジェクトの推進を図ることとしている。研究チームは,当該課題を遂行するために必要な研究分野の専任の研究者3〜5名程度で編成され,これに基盤研究部門の研究者がその専門的知見を生かして協力する体制となっている。また,基盤研究部門においては,環境研究の基盤となる基礎的・先導的な研究を実施し,プロジェクト研究を支えるとともに研究所に必要な科学的知見の蓄積を図ることとしている。
しかし,約180名という限られた研究者で広範な環境問題に対処するには,多くの困難に直面することが予想される。従来以上に大学,国立試験研究機関,地方公害研究所等の研究者の方々のより一層の御協力と関係各位の温かい御支援をお願いする次第である。
目次
- 国立環境研究所の発足に寄せて巻頭言
- 嵐に向かって翔べ論評
- 新たな研究所における研究企画の役割論評
- 国立環境研究所記念式典を挙行所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介、報告
- 研究支援体制の役割論評
- 地球史,人類史の中での地球環境研究 −地球環境研究グループの発足にあたって−論評
- 「自然環境保全研究分野」の研究について論評
- 「環境保全対策分野」の発足に当たって論評
- 「環境リスク評価分野」の発足に当たって論評
- 社会環境システム部とは論評
- 化学と環境と論評
- 環境健康部の役割論評
- 基盤研究部門としての大気圏環境部論評
- 水・土壌・地下環境の保全をめざして論評
- 生物関連研究の新たな体制論評
- 環境情報のセンターを目指して論評
- 地球環境研究センターの任務 —地球環境の保全に向けて全体像の構築を—論評
- 環境研修センターの紹介論評
- 第13回 研究発表会、特別講演会報告所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介、報告
- 編集後記