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2016年8月31日

社会対話・協働推進オフィス

【研究施設,業務等の紹介】

江守 正多

 2016年度からの第4期中長期計画の開始にともなう新たな組織として、「社会対話・協働推進オフィス」(略称「対話オフィス」)が研究事業連携部門に設置されました。専任スタッフとして科学コミュニケーター1名を採用し、所内各部署から10名程度がメンバーに指名されました。筆者はオフィスの代表を務めます。本稿では、このオフィスの設置の趣旨と、活動方針についてご紹介します。

 対話オフィスの設置の背景には、環境問題が科学技術だけでは解決できない問題であるという強い認識があります。そもそも、「問題」をどう定義するか、「解決された状態」をどう定義するかさえ、社会の様々な主体の間で考えが異なるでしょう。そのため、環境研究を進める上では、専門家が社会と双方向的に対話することが必要です。その際に重要となるのは、専門家が「人々が知らないことを教えてあげる」という姿勢で一方的に情報を発信するのではなく、社会の様々な主体が持つ異なる視点、認識、知恵、価値観等を尊重した上で、「相互に学びあう」姿勢で社会と向かい合うことです。それによって、我々、国立環境研究所の研究者が研究活動を進める上での重要なヒントが得られる可能性がありますし、我々と社会との間の相互信頼関係を醸成することも可能になると考えます。

 対話オフィスの活動方針は、5つの項目からなります。

 1つめは既存の対話機会の経験の共有です。これまでも、国立環境研究所の研究職員等は、研究所公開、一般向け講演、問い合わせ対応、取材対応等を通して、社会と対話してきたはずですが、その経験は個人の中に蓄積されているだけで、組織として共有できていません。このような経験の掘り起こしを行い、よりよい対話に向けての指針として整理し、研究所内外と共有していきたいと思います。

 2つめは、新たな対話機会の創出です。たとえば、研究所としてご意見を伺いたい社会の様々な主体(企業、市民団体、メディアなど)の方々をお招きして意見交換を行う「ステークホルダー対話会合」や、一般市民の方々と環境問題についてざっくばらんに語り合う「サイエンスカフェ」などを企画していきます。

 3つめは、ソーシャル・ネットワークを利用した対話です。フェイスブックやツイッター等を活用することによって、普段、環境問題のイベント等にいらっしゃらないような人たちとも対話の機会を作っていくことを試みます。

 4つめは、所内各部署での対話的な研究活動の支援です。国立環境研究所の様々な研究活動の中には、社会との対話の必要性が認識されていたり、既に対話的な取り組みが行われているテーマがいくつもあると考えられます。たとえば、福島における除染廃棄物や復興、地域の生態系保全、自治体における気候変動適応などです。そのようなテーマについて、所内の担当部署と連携して、対話的な研究活動を促進します。

 5つめは、地球規模の持続可能性についての国際的な研究プログラムである「Future Earth」に関する活動です。Future Earthでは、社会が持続可能な方向に転換するための研究を推進するにあたり、専門家と社会との協働を重視しています。対話オフィスでは、国内でその活動を具体化するためのお手伝いをする予定です。

 始まったばかりの小さなオフィスで、できることは限られていますが、極めて必要性の高い活動であることを確信しています。今後、国立環境研究所内外の環境研究全般と、社会の様々な主体との間をつなぐ橋渡しの役目を、少しずつ大きく果たせるようになっていきたいと思います。

(えもり せいた、地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長)