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自由記述調査法による高層住民の音環境意識 近藤美則・大井 紘・須賀伸介・宮本定明;土木学会論文集, No.458/IV-18,111-120 (1993)

論文紹介

近藤 美則

 昨今,都市への人口や産業の集中,また都市における地価の高騰とそれに伴う居住の過密化と長距離通勤の傾向が指摘されている。その結果,さまざまな都市問題が発生しており,その解決の一つの手段として住宅の高層化が押し進められている。このような状況の中で,本論文は都市問題のうち音の問題を取り上げ,同じ地区にある一戸建て住宅住民と高層住宅住民に対して音についてのアンケート調査を行い,一戸建て住民の音に対する意識と対比しながら,1)高層住宅住民は音についてどう考えているか,2)高層住民の音環境はどう認知すべきか,さらに,3)今後大都市において住宅の高層化が避けられないなら,高層住宅で快適に暮らすには住民は音の問題を含めてどうすべきか,等を明らかにしている。

 さて,実際に明らかになったことを示そうと思うが,ここでまず,この論文の特徴の一つである題目冒頭の「自由記述」式について説明しておく。自由記述式とは,社会調査で用いられる回答方式の一つで,他に選択肢式がある。選択肢式とは,予め定められた回答群から回答を選ぶ方式であり,世論調査や国勢調査,街角でのアンケート調査などで用いられる。それに対して自由記述式とは,“あなたの年収はいくらですか”とか,“あなたは「みどり」からどんなことを連想しますか”などの設問に対して,回答者の考えたままに自由に回答する方式である。この自由記述式の利点は,調査者の意図が回答者に読みとられにくく,選択肢がないために回答者の自由な発想が可能なことである。しかしながら,この方式だと設問の意図が回答者に正確に伝わらず,何を書けばよいのか回答者が迷ってしまうことが起こり得る。また,回答を選択肢から選ぶより文章などの形で回答を求めるために負担が大きく,“わからない”という回答が少なくない。また,回収票の分析においても,選択肢式のような体系的な分析法が定まっていないため,調査者への負担が大きい方式でもある。けれども,この方式だからこそ得られる,それだけの労力をして十分に有り余る結果が得られるため,我々はこの方法をあえて使うわけである。

 では,調査の具体的結果を示そう。まず,高層住民の音環境の認識は,図に示すように一戸建て住民の「近所」という段階が3つに細分化され,一戸建て住民ほど単純ではない。また,このような認識はなにも高層住民に限られたことでなく,一戸建て住宅群でも密集を意識すると隣戸との間の音の授受の段階(高層住民の「密接戸」に相当)が発生する(自由記述式だから得られたこと)。次に,高層集合住宅においては,一つの棟,また一戸一戸とその隣接戸とからなる集まりとを一つの音環境の単位として認識しなければならない。また,高層住宅の棟内の音環境はどこでも同じというわけではなく,上の階になるほど建物外部の地上音が聞こえてくるため音環境が拡がり,高層住宅入居時にありがちな上の階ほど静かという期待が裏切られることがある。さらに,建物の高層化は新たな音環境を生み出し,また音についての迷惑・被害感は音の受け手と発生者との関係に大きく依存することから,日頃の近隣との良好な人間関係を作ること,音を出す前に挨拶や音を出す意義の説明をすること等,生活上の音を発生・受容するルール作りが高層住宅では一戸建て住宅よりもより注意深く行われなければならないこと等が明らかになった。

(こんどう よしのり,社会環境システム部環境計画研究室)

図  高層住民と一戸建て住民の音環境に対する意識構造