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地球環境研究の発展に向けて

論評

安野 正之

 地球環境研究グループが発足して3年になろうとしている。研究活動を始めてからは実質2年しか経っていないことを考えると,かなり実績をあげてきたといえる。しかし全てが満足のいく形であるとはとても言い切れない。問題点の多くは既に分かっていることであるが,改めて整理してみることは意味のあることと思う。

組織及び研究者数

 研究組織は公害研究所時代から引き継いだ研究チームは少なく,ほとんどが新規のチームからなっている。その多くは専門の違う混成チームで,組織の改変の時に形を整えるために編成された。これによって研究者個人としてもチームとしても相乗効果が出れば大変喜ばしいことである。現在は多くの人が努力している段階でその効果はまだ現れていない。本年度多少の入れ換えを行ったが,再編成するには研究所の研究者層ももっと厚く,絶対数も多くなければ不可能である。このことは不完全な研究チームの存在を認めざるを得ない現在の状況の原因でもある。地球環境研究時代に発足時はともかく研究者の充実がなければ外国の研究に差をつけられることは目に見えている。公害研究においては現在の研究員数でかなり集中的に研究ができたのであるが,現在は地球環境及び自然環境まで次元が広がったことに気付かねばならない。しかしながら,一方では旧体制からの脱皮ができないままでいることも否定できない。また,不完全チーム(仮にそう呼ぶ)においては基盤の研究室に大きく依存せざるを得ない状態にある。ここで,あえて不完全チームといわねばならないのはチーム構成員が実質1人のところである。地球環境研究において基盤研究部との関係は重要であることは異論のないところである。しかし当初の構想では地球環境研究グループのチームが中核にあってその外側で研究推進に加わるということではなかったのか?それが逆になっているケースがいくつもある。そうなると地球環境研究グループ自体が不完全な組織ということになる。それでも地球環境研究という目標に向かっていれば良いが,名目上地球環境研究として経常研究費の不足を補うだけのものもある。このようなものも現実の経常研究費の乏しさをみると認めなければいけないのかもしれない。ただし,このような場合には地球環境研究グループとしてはなんらの責任を持つことができないし,実際に責任を負わない体制ができつつある。

 また,混成チームにおいても各研究者は以前に所属した研究部のスペースを借りないと研究ができない。新規の機器類の置き場がないという状態では不便このうえないのである。とりあえずは不完全チームは解散するか,充実するかである。願わくは後者であって欲しい。

研究テーマの拡大傾向について

 地球環境研究のほとんどが長期にわたるものである。一方,問題も少なくないことから新しい課題が加わってくる。その結果,小数の人員でいくつものテーマを担当していく傾向が生じる危険がある。現在行われている研究テーマが多いため,全体の方向付け,あるいは全体を把握することが難しい分野もあり,将来的に見直していかねばならないが,そのためには地球環境研究グループの充実が前提となる。

 さらに,長期研究の場合こそ研究がどれだけの期間続ければどれだけのことが期待できるのか,どういう展開をすべきなのか現時点で明らかにする必要がある。環境変動の長期観測は一方で進めており,それとの兼ね合い,あるいは転換が必要なものもある。ほんとうに長期研究計画の必要な課題は最初から計画をたてることを考えねばならないはずである。

分野別研究の研究交流

 地球環境問題は行き着くところは一つである。個別の研究の重要性はいうまでもないが,相互の研究交流も必要である。現に分野を越えてオゾンに関する研究が行われている。一方,温暖化は現在でも多くの分野が関係しているが,相互理解が十分とはいえない。大気中の炭酸ガス濃度変化に関して陸上植物の生産,分解からの寄与及びその反対の影響,海洋による炭酸ガスの吸収,固定など既に言いつくされてきたが,研究の進展は遅れているし,当研究所では十分人手をかける余裕がない。炭酸ガス濃度の上昇による影響は雨量の変化のみならず窒素源の変化をもたらし,さらに雲量の多さと曇日が長くなることから必ずしも陸上の第一次生産量が増すといえない地域もでてくることは以前からいわれていたが,このことは最近の気候変動モデルに合わせた最新の計算結果からも確からしさが示された(Melillo et al・,(1993)Nature,363(6426))。これは気候変動モデルの進展とともに生物生産に係る研究組織がしっかりしていなければできないことである。

 温暖化現象研究チームによるシベリアにおける研究は温暖化をもっとも明確に早期に見いだすことが期待できるとともに,凍土の溶解,そしてメタンの発生など温暖化影響研究も切り放せない。いずれ収斂するにしてもとりあえずは研究所内での研究交流の必要性がある。昨年度地球大気環境問題の相互相関の予備的研究がなされたが,より具体的に,より深く相互の関係の検討を続けるべきである。現在でも総合化研究という枠で行われている研究はこれらの研究の成果とは別である。それは政策決定に地球問題の全体像が必要であるからで,かなり大まかなモデル研究にならざるを得ない。現時点では各チームにそれに寄与することを期待することはできないが,数年後にはそれぞれ気候変動に関係するモデルを用意することを念頭におかねばならない。

国際共同研究

 現在,マレーシアにおける熱帯降雨林の生態系の共同研究が着実に成果をあげている。シベリアにおける日ロの地球温暖化現象の研究も軌道にのっている。どちらもかなり大がかりになり,関係研究者も増えていることは喜ばしいことに違いない。それだけに国内研究者の調整と相手国との定期協議が必要である。どちらも長期間の研究が望ましい。そしてどちらも環境研究所の研究チームだけではとても人が足りないことを考えると,国際共同研究ではあるが,国内共同研究の体制をしっかり作らないと長く続けることができない。これほどのスケールではないが,中国の昆明における気候変動とマラリアの研究が進行中である。

 また,本年度いよいよインドのジョドプールの乾燥地研究所との砂漠化に関する共同研究も始まる。これらはどれも日本にいてはできない研究であり,共同研究の相手国及びその機関との相互理解なしには遂行できない。さらに海外出張旅費を十分認めてくれることを常々お願いしているが,研究者がこころおきなく海外での研究ができるようになるのは何時の日か待ち遠しいかぎりである。

(やすの まさゆき,地球環境研究グループ統括研究官)