草原の炭素収支と温暖化
コラム2
草原では、草の光合成によって大気中のCO2が吸収され、植物体の有機炭素として蓄積されます。植物は枯れてから、土壌中の有機炭素になります。一方、植物も土壌中の微生物も呼吸をするので、植物体内または土壌中の有機炭素は、呼吸によって再び大気中にCO2として放出されます。これが草原炭素収支の主な流れです。また、多くの草原には野生動物や家畜がおり、草の一部はこれらの動物によって食べられて最終的にCO2として大気中に放出されます。
草原は、普段私たちの目が届かない土壌中に多くの炭素を蓄積しています。これは、草の植物体の多くの部分が根や地下茎として土壌中にあることに関係しています(目安として草の地上部と地下部比は、植物体乾燥重量で1:5と考えられています)。また、多くの草原は、乾燥、寒冷な気候、またはその両方の気候条件下で成立しており、そのような気候では微生物による土壌中の有機炭素の分解が抑制されます。多くの草原では、草の葉など地上部分は動物や家畜によって食べられてしまうので、結果的に、草原の炭素は主に土壌中に蓄積されることになります。
草原の炭素収支や土壌炭素の変化も大気のCO2濃度に影響を及ぼし、温暖化の進行にも関わります。これまでの研究では、草原の土壌炭素の蓄積量は場所による違いが大きいことがわかりました。将来は、植物の種類や気候条件など空間的変動のパターンを形成している要因をさらに的確に把握することで、地球全体の草原の炭素蓄積量に関する正確な評価ができるようになると期待されます。一方、炭素収支については、草原での過放牧、農地化、または湿地草原の乾燥化によって、草原土壌中に蓄積された炭素がCO2として大気中に放出されます。同時に、気候や人為的な要因が草原の炭素収支に及ぼす影響は、大きな時間的空間的変動があるため、草原全体の炭素収支の予測については不確実性が非常に高いこともわかっています。今後、草原炭素蓄積量変化や草原炭素収支に関する時空間的変動特性およびそれらのさまざまな環境要因との関連性を明らかにし、草原の温暖化への影響に関する不確実性を減らすための研究にさらに力を入れる必要があるでしょう。