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2014年12月31日

持続可能な都市の構築に向けて行われている、様々な取り組み

研究をめぐって

今日、限られた都市のスペースに世界人口の約半数が住んでいるとされ、2030年にはこれが60%に上昇すると言われています。都市を持続可能な形に変えていくことは、そのまま地球の持続可能性にも直結するとても重要な課題であり、全世界の人々の注目を集めています。

世界では

 都市の持続可能性は、世界中の人々の大きな関心事になりつつあり、様々な会議で対策が議論されています。1992年にブラジルのリオデジャネイロで「環境と開発のための国連会議(地球サミット)」が開催されたことは有名ですが、その20年後の2012 年に、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が再びリオデジャネイロで開催されました。この会議では、世界中の国々から多くの人々が集まり、どのようにして環境に優しい経済のしくみを構築して持続可能な発展を実現し、貧困を削減するかについて話し合われました。会議で採択された宣言文の中では、人類の望む未来について記載され、持続可能な都市も重要な7つの課題の1つとして挙げられました。課題の中では、資源の利用効率を高め、環境負荷や貧困を削減することが求められています。

 都市の持続可能性を改善する方策の中でも、特に私たちが着目している産業間や、産業と住宅・商業地区、そして都市と自然の共生についての議論が盛んに行われているのは、International Society for Industrial Ecology という学術会議です。日本語に訳すと、国際産業生態学会ということになります。産業を生態系になぞらえて、その環境負荷を抑える方法を議論する場ですが、その研究対象は産業だけでなく、都市全体や自然も含まれます。2年に1回会議は開催され、これまではヨーロッパと北米が会場となっていましたが、2013年に韓国・蔚山市が会場となり、初めてのアジア開催となりました。蔚山の工業団地では韓国政府が主導して産業共生が強力に進められており、世界からも注目されています(図7)。この会議は、国立環境研究所も共催しています。また、隔年の会議の間の年には、アジア太平洋地域の会議が東京や北京で開催されるようになりました。このようなアジアへのシフトは、アジアの都市の重要性を物語っています。

図7 韓国・蔚山の工業団地における産業共生
お隣の国、韓国にある蔚山市は、石油化学、自動車、造船、製紙などの大型産業が集積した、世界でも有数の規模の産業団地です。韓国政府が主導して、廃熱や廃棄物を異なる工場間で利用する産業共生の取り組みが強力に進められています。写真は、廃熱と二酸化炭素を輸送するパイプラインです。このような施設の建設にはまとまった初期投資が必要ですが、燃料消費等を削減できる結果、早ければ1年以内、平均数年以内で投資が回収できるほど収益性が高いことも、蔚山の特徴です。蔚山の産業共生は、国際産業生態学会でも注目されており、多くの論文や研究成果が発表されています。

日本では

 国内では、環境システム、環境経済・政策、環境科学、環境共生など、環境と名の付く学会が複数存在し、また、エネルギー、廃棄物・資源循環などの学会もあります。都市の持続可能性に係る、低炭素なエネルギー需給システムの研究、資源の効率的なリサイクルに関する研究、持続可能性を向上する取り組みを推進するための、市民意識の研究などが、これらの学会で報告されています。

 日本には優れたテクノロジーが存在しますが、これらを活かして国内の、あるいは海外の低炭素都市の構築を推進する研究が、産官学連携で進められています。一方、都市を持続可能な形に変えるという一大事業は、テクノロジーに頼るだけでは遂行できません。日本に古くからある概念である、「もったいない」という言葉が世界でも有名になりましたが、日本独自の文化や価値観を背景に、資源消費を抑制し、資源は様々な形で何度も利用するという、消費スタイルを築くことも、重要な研究テーマです。

 行政による取り組みも進んでいます。持続可能な経済社会システムを実現した都市・地域づくりを目指す「環境未来都市」構想が進められ、23の環境モデル都市と11の環境未来都市が選定されました。選定されたのは横浜市、京都市、北九州市といった大都市ばかりでなく、人口が1万人未満の小さな都市も含まれています。例えば、環境未来都市である福島県・新地町では、地域社会を支える情報通信や交通のインフラ整備、地域の産業の環境面にも配慮した持続的な発展などの方策が検討されています。小さな町ですが、大型の火力発電所が町内に立地し、液化天然ガスの受け入れ基地が建設される計画もあり、エネルギーの有効利用で、低炭素化に大きく寄与する可能性があります(図8)。

図8 新地火力発電所
福島県新地町には、大型の石炭火力発電所が立地しています。東日本大震災による津波の被害を受け、石炭の荷揚げを行う港湾施設をはじめ、多くの被害を受けましたが、現在では復旧して電力を供給しています。将来、液化天然ガスの受け入れ基地も建設されると、更に重要なエネルギーの供給拠点となります。これらのエネルギーを効率よく供給したり、利用したりするしくみを作ることが、持続可能な都市の発展にとって重要な課題となります。

国立環境研究所では

 都市の持続可能性には資源や環境問題以外にも、様々な側面の問題が関与しますが、これらの中から都市の環境問題だけを取り出しても、大気汚染、温暖化、土壌・水質汚染、廃棄物、健康、生態系と様々な問題があります。これらの問題の社会的な解決策を考える社会環境システム研究センターの研究活動を含め、国立環境研究所で行われているほとんどの環境研究は、都市の持続可能性に大なり小なり何らかの関係があると言えます。とりわけ持続可能性については、持続可能社会転換方策研究プログラムが実施され、持続可能な社会の構築に必要となる対策を生産や消費の面から分析しています。都市に正面から注目している研究としては、環境都市システム研究プログラムが実施され、持続可能な都市の将来シナリオを構築し、そこへ到達するための実効的なロードマップを明らかにすることを目的に、環境技術や施策の研究が行われています。また、東日本大震災以降、福島と東北を中心とする被災地域の持続的な発展を可能とすることを目的に、環境創生研究プログラムが実施されています。前述の新地町と研究所は連携・協力協定を結んでおり、環境と経済が調和する復興のお手伝いをしています。

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