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2014年12月31日

トレードオフの把握

コラム2

 持続可能な物質・エネルギー利用の究極的な姿は、物質の利用を定常的にし、エネルギーは再生可能なもののみを利用することです。定常的とは、物質を利用していても、リサイクルして繰り返し利用することにより、実質的には物資の消費を行っていない状態です。

 しかし、大量消費が行われている現在の社会が、このような究極的な姿に到達するのは容易ではありません。徐々に改善する対策を取ることが必要です。一方、都市の持続可能性にとって、ある面を改善するための対策が、別の面では負の効果をもたらしてしまうことがあります。このようなトレードオフの関係を把握しながら、より持続可能な姿に近づく選択をすることが求められます。

 一例として、鉄骨住宅と木造住宅の比較を行い、資源占有率指標で評価を行った結果を示します。鉄骨住宅は、鉄という有限な資源を占有します。鉄の製造には石炭が利用されるため、二酸化炭素の排出にもつながります。大気中で増加した二酸化炭素は、土壌や海洋に移行して徐々に大気から除去されますが、このとき除去能力の一部を占有します。現在は、地球全体の除去能力を超えた放出により、大気中の二酸化炭素濃度の増加(地球温暖化)につながっている状態です。

 一方の木造住宅では、再生可能で二酸化炭素の実質的な排出がない木材を利用しますが、その製造には土地を占有します。植林地は、天然の自然からは人工的に改変されており、このような土地占有の影響も考える必要があります。

 図2には、鉄骨から木造に変更した際の費用と資源占有率の変化(差)を示しており、鉄の使用、木材の使用、二酸化炭素の排出に関して、1つの評価基準である経済的な価値の変化とともに、資源占有率による評価結果(値が小さいほど持続可能)を示しています。経済的観点からは、鉄と木材は同程度の価格で、二酸化炭素削減の経済価値は、これらに比べるとずっと小さく、結果的に両者で経済的な差異はわずかであると評価されます。

 資源占有率で見ても、鉄の物質占有を減らせる効果と、木材生産のための土地占有の増加は、同程度の年数となり、一概にどちらがより持続的とは言えません。再生可能資源の利用も、視野を広げて評価すると、常に持続可能性にとってプラスになるとは限らないのです。一方、木造にすることで得られる、二酸化炭素の削減効果はある程度大きく、この点では効果があることが分かります。

図2 評価結果(経済的評価と資源占有率による評価の比較)