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2016年7月4日

水環境研究の最前線(7):水を研ぎ、究める
再現された海の放射性物質の動き

今回は、海の放射性物質の動きを紹介しよう。海域では、東電福島第1原発事故後、原発からの直接漏出と大気中から海に降り注いだものが主な汚染要因と考えられる。結果、事故後最初に海水の放射性物質(主にヨウ素131とセシウム134、137)の濃度が急上昇し、コオナゴ(イカナゴ)の汚染が大々的に報道された。しかし、半減期が8日と短いヨウ素131はすぐに検出されなくなったし、セシウムの海水中濃度も数か月で問題にならないレベルまで低下した。しかし困ったことに、海底土の濃度が急上昇してしまった。これは、先月号で紹介した陸域と同じく、海水中のセシウムが海底の土に強く吸着されたためだ。海底土に吸着されたセシウムの動きは、海水に比べて非常に鈍い。そのため、現在も高濃度で検出される。

しかし、実際の海では、海流、潮の干満、気象条件によって放射性物質は複雑な動きをしていると考えられる。広大な海で、セシウムの濃度や変化を虱潰しに測ることなど所詮不可能だ。そこで、国立環境研究所では、海域の実態に迫るため、放射性物質の海洋拡散モデルを開発し、研究所のスーパーコンピューターを駆使して、再現シミュレーションを行ってきた。

例えば、2011年5月末の台風から変わった温帯低気圧の通過が原因で海底土が巻き上がり、海水中のセシウムを吸着して再び海底に沈んで堆積したことが海底土の濃度上昇に大きく寄与していることが、シミュレーションで再現できた。

また、様々な試験研究機関による実測調査の結果、福島南部から仙台湾にかけて水深50~100mの等深線に沿って帯状に海底のホットスポット(高濃度地点)が形成されていることが明らかになっている。なぜそうなるのか?再現シミュレーションでそのメカニズムが説明できた。すなわち、浅海域の海底土は海中への巻き上げと堆積を繰り返しながら徐々に深い沖合に移動するため、浅海域の海底土のセシウム濃度は徐々に減少していく。一方、沖合では次第に深さを増すにつれ潮流が弱くなり、風の影響も底まで届かないので、ある深さまで来ると泥が巻き上がらなくなる。それが水深100mの辺りで、その境界域付近にセシウムが集積して、定着しているというわけだ。

福島県を中心に東日本の太平洋沿岸域では、海水と浅海域の海底土の濃度低下に伴い、水産物から出荷規制値を超える濃度が検出されることはほぼ皆無となったが、現在でも厳格な放射能検査が行われており、一部の海域の特定の魚介類に対して出荷制限や操業自粛が続けられている。だからこそ、逆に今市場に出回っている海産物はすべて、安全であると断言できる。大震災前のように、東日本の豊富で美味しいすべての海の幸が再び私たちの食卓を飾り、心置きなく賞味できるよう、この研究成果がその安心の裏付けになることを願っている。

シミュレーションで再現された2011年12月の海底土表層のセシウム137濃度分布(作成:東博紀)

国立環境研究所理事・石飛博之

Water & Life No.604 2016年7月号から転載

関連情報のリンク

水環境研究の最前線:水を研ぎ、究める(Water & Life 2016年)