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2016年10月28日

水環境研究の最前線(11):水を研ぎ、究める
世界の水資源はどれだけ使えるか?

今月号では世界全体の水資源研究を紹介しよう。
地球温暖化により世界の降水量は今後さらに極端化・偏在化することは先月号で述べたが、問題は降った雨や雪が、それぞれの地域で実際に使いたいときに十分使えるかということだ。つまり、降水量が減ると土地が乾燥して農作物が育たず人も住めなくなるし、逆に降水量が増えたとしても、台風やゲリラ豪雨のような降り方では一気に海に流れ去って利用できないばかりか、深刻な水害をもたらしかねない。

そこで、国立環境研究所では、こうした世界の水資源問題をきめ細かく分析するためのモデル(ソフトウェア)を開発してきた。特徴は3つ。

  1. できるだけ地域的な特徴を分析するため地球表面を50km四方のメッシュに区切って計算、
  2. 時間的な変動も追うため1日単位で計算、
  3. 自然の水循環と、水源からの取水やダムへの貯留など人為的な水利用との関わり合いも考慮。
3についてもう少し説明すると、自然の表流水や地下水に対して、人が河川の上流で大量に取水するとその分下流で使える水は減るし、地下水を汲み上げ過ぎると将来利用できる水量は減るおそれがある。また、雨季に降った雨をダムに貯めておけば、河川流量の少ない乾季にも利用することができる、というわけだ。

ここでもう一つ、大事な条件設定が必要だ。今後人類が地球上でどのような社会経済活動の道筋をたどっていくかだ。それによって各地域の水需要も変わってくるし、温室効果ガス排出量の多寡によって水資源問題の前提となる気候の変動のし方も違ってくる。しかし、どの道筋を選ぶかを決めるのは人間であり、その選択肢は無数にある。そこでこの研究では、世界の研究者が地球温暖化研究のために共同で作成した5パターンの道筋(シナリオ)を利用することにした。このシナリオは、地域の経済的格差や技術進歩、人口増加、環境や資源制約への配慮の度合いに応じて設定されている。

これらに沿って世界の水資源と水利用のコンピュータ・シミュレーションを行った結果の一部が、下の図だ。両極端のシナリオ:「持続可能シナリオ(上図)=地域経済格差が縮小、速い技術進歩、高い資源・環境意識、低い人口成長」と「分裂シナリオ(下図)=地域ブロック化、貧困が増加、遅い技術進歩、環境破壊・資源搾取、高い人口成長」について、2000年に比べて2055年頃にどの程度水不足が悪化するかを表している。

これを比べると、アフリカ以外では、色の濃さが相当違っていることがわかる。人類の生き方次第で水不足がかなり回避できる可能性があるということだ。一方、アフリカの水不足は深刻だ。これは、温暖化の影響もさることながら、人口や経済活動の伸びによる水需要の急増が避けられないことによる。今でさえ貧困や紛争で苦しむ多くのアフリカの人々に対して、さらに厳しい環境を強いることになりかねない。この研究成果が、世界中の英知を結集して何とかそれを食い止めるきっかけとなることを期待したい。

世界の水不足の悪化予測
(色が濃いほど悪化。数値の-0.10(=10ポイント減)は、使いたいときに使える水量の需要量に対する割合が、2000年に比べて2055年頃には10ポイント減少することを意味する)
(作成:花崎直太)

国立環境研究所理事・石飛博之

Water & Life No.608  2016年11月号から転載

関連情報のリンク

水環境研究の最前線:水を研ぎ、究める(Water & Life 2016年)