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GFDLのスーパーコンピュータ更改

海外からのたより

光本 茂記

 我がGFDL(地球流体力学研究所)は、プリンストン大学のメインキャンパスから約3マイル離れたフォレスタル・キャンパスに位置する。プリンストンの町全体とほぼ同じ面積の広大な敷地だが、今やアポロ計画華やかなりし頃の面影はなく、現在はPPPL(プリンストン・プラズマ物理学研究所)と当GFDLが活動しているのみである。

 キャンパスの中央に長さ1/2マイルの滑走路が残されており、少々ひび割れの入った滑走路を横切って毎日6〜7人のグループでPPPLの食堂まで歩く。常連はManabe、Bryan両先生の他には、私と同様2年間の契約で外国から来ている客員研究員である。

 さて、話題はスーパーコンピュータの更改についてである。

 今年の5月15日に、これまで8年間動いていたCyber-205に代わりCray Y-MP832の供用が開始された。私が着任した昨年7月の時点で更改を告げられ、以後複雑な気分で、しかしやむを得ず熱心にCyberの習得に努めていた私は、いよいよCrayが入って、本気で使おうというファイトと、これまでCyberで蓄積してきた大量のプログラムの変換作業に伴うタイムロス(1か月とみていた)への不安が相半ばした。ところが1か月たってもCyber時代のレベルに戻るには程遠い状況であり、その頃一時帰国というハプニングもあったりして、ようやく本格的な作業に入ったのは7月半ばになってからであった。

 既に5月の時点で我がManabeグループが共通に使っていた巨大なメインプログラムについては、優秀なプログラマー(同時に研究者)のRon StoufferがCray本社(ミネソタ)に滞在したりして一人でその変換作業を完成させていた。しかし、各研究者が、これをベースに独自に追加、変更した部分については各自で作業をやらねばならない。

 私も度々Ronに助けを求めながら毎日「虫取り」に明け暮れ、ようやく自分のモデルが初めてCrayの上で走ったのはごく最近(8月半ば)である。勢い込んで、Cyberに比べ実質十数倍速いCrayを使って一気に本計算→論文執筆…と思いきや、大きな障害が待ち受けていたのだ。解析プログラムと呼ばれる、計算結果を解析したり図に表示したりする周辺ソフトが、まだちゃんと変換、整備されていなかったのである。私に残された時間は既に5か月をきり、他の人達が整備してくれるのを待っているわけにゆかず、自分でやることにした。しかし、そうすることによって、これまでほとんどtakeばかりであった私は、他のメンバーに対して少々giveできる立場になった。

 延々と続く虫取り作業の苦もんの中で、私は一度だけManabe先生に泣き言を言ったものである。その時先生はいつもの陽気な調子で、「そうですか。それはとてもいい事だ。私も若い時には計算がうまく走らなくて自殺したくなったりしたものです。だから今、若い人が苦しんだり間違えたりするのを理解してあげる事ができる。光本さんも今のうちにしっかり苦しんでおいたらいい。」とカラリとおっしゃて下さった。

 解析の方も見通しがついて、残りの4か月間目一杯働き、力尽きて帰国しようと思っている。

 プリンストンはこれから、例えようもなく美しい、私にとって2度目の秋を迎えようとしている。(1990.9.11、カーネギー湖を望む自宅にて)

(みつもと しげき、大気圏環境部大気物理研究室)

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