環境ストレスと騒音苦情
研究ノート
影山 隆之
自治体への騒音公害苦情の発生数は,地域環境騒音による住民の精神・心理的ストレスの指標として用いられてきた。もっとも,騒音苦情は環境ストレスの間接的な指標に過ぎないとの議論もあるが,依然それが公害苦情の中で大きな比重を占め,数が減っていないことも事実だ。われわれのこれまでの解析では,騒音の種類毎に苦情の分布が異なり,種類別に検討すべきこともわかっている。
図は,首都圏176市区の騒音苦情(昭和61年度)に関する社会統計学的な解析の一部で,縦軸は人口当りの年間苦情発生率,横軸は人口密度を表す。都市を人口密度の大小で5等分し,各区分内での中央値と同±25パーセンタイルを座標とする点を結んだものを,折れ線で示してある。工場・作業場(特定工場以外)への騒音苦情は実数としてはもっとも多い種類なのだが,人口密度5千人/km2以上の高密度地域では発生率が頭打ちの傾向にある。都心では工場の密度がむしろ低下していることを反映しているのかもしれない。逆に,ビルや高層マンションなどの特定建設作業に対する騒音苦情は,人口密度1万人/km2以上の超高密度地域で急増している。いずれも,直線的ではない関係が,視覚化されているがその理由については,今後さらに議論を要する点でもある。
苦情発生率は人口密度の他に,騒音発生量を示す地域指標(工場数,共同住宅数等)とも,独立した関連をもっており,図の縦方向のバラつきはこれである程度説明できる。つまり苦情発生率という指標は,環境側(音)の要因と主体側(人間)の要因の両方を表しているとも考えられる。
これは騒音苦情の統計的な意味付けだが,苦情の事例性の問題(同じ条件下でなぜ苦情を訴える人と訴えない人がいるのか)は,これだけでは説明しきれない。性・年齢等の個々の属性と苦情発生プロセスとの関係は,事例検討や社会調査のような視点を異にする方法によっても,検討する必要がある。