環境科学研究用ウズラに出現した羽装の突然変異
経常研究の紹介
高橋 慎司
ウズラは,キジ科(Phasianidae)に属し世界的に広く分布しているが,わが国に生息しているのは,特にニホンウズラ(Japanese quail,Coturnix coturnix japonica)と呼ばれている。歴史的にも人間との関わりは古く,江戸時代には“鳴きウズラ”として愛玩用に飼育されていた。しかし,ウズラが実験動物として利用されてきたのは比較的新しく,ニホンウズラは1950年代に米国で注目された。わが国でも,1960年代頃からニホンウズラ(以下はウズラと略)の実験動物としての有用性が認識されるようになり,大学・研究機関等で遺伝・育種・繁殖・生理・形態学的な観点から使用されている。
ウズラの特徴としては,性成熟に達するまで約6週間と短く,体質が強健であり,繁殖も容易であることなどマウス・ラットに匹敵する能力を持ち,産卵能力もニワトリと比較して勝るとも劣らない。しかし,実験動物学的な短所としては,近親交配による繁殖能力の低下が著しいため,近交系ウズラの作出が困難であると言われている。
国立公害研究所動物実験施設では,環境科学研究用実験動物としてウズラに着目し,8系統の遺伝的純化を試みている。特にH2及びL2系ウズラは,ニューカッスル病ウイルス(NDV)不活化ワクチンに対する抗体産生能を指標として高(H2)及び低(L2)系へ現在まで38世代に亘って純化されており,近交系ウズラの作出が最も有望視されている系統のひとつとなっている。ところで,このL2系ウズラの選抜22世代目において,1家系から4羽の羽装突然変異個体が出現した(写真を参照)。この羽装は,ふ化時では黄色であり,成長に伴って淡黄色化するシナモン型(Cinamon-dilution type)を示した。そこで,これをYL羽装と仮称し,その遺伝様式を検討した結果,YL羽装は,常染色体上の劣性遺伝子により支配されていることがわかった。
わが国では,常染色体上の劣性遺伝子に支配されているシナモン型羽装ウズラの報告は認められなかったため,1988年の9月に名古屋で開催された第18回万国家禽学会で,YL羽装ウズラの展示を行って確認した。その際に,カナダのブリティシュコロンビア大学に似たような突然変異羽装ウズラがいることがわかり,現在もお互いの情報を交換中であるが,眼色等が異なっていることより,YL羽装は新しい羽装突然変異である可能性が高いと思われる。
今回出現した突然変異羽装(YL羽装)は,遺伝標識( Genetic marker )として有用であるため,選抜30世代目からL2系に積極的にYL羽装遺伝子を導入した結果,選抜34世代目で固定することに成功した。
そこで,H2系とL2系ウズラは羽装の違いによりふ化時から簡単に識別できるようになったため,両系の選抜時での遺伝的コンタミ防止として極めて有用となっている。なお,今回出現した突然変異羽装は標識遺伝子(Marker Gene)として国際的に登録する予定である。