ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2022年10月31日

環境創生型の地域づくり先進事例に見られる
共創的プロセスの記述:災害復興地域での展開に向けて

特集 災害からの復興と持続可能な地域づくり
【研究プログラムの紹介:「災害環境研究プログラム」から】

戸川 卓哉

1. はじめに

 気候変動や人口減少など地域を取り巻く諸問題に対応した持続可能な地域づくりが課題となっています。避難指示区域が順次解除され復興が進みつつある福島県浜通り地域においても例外ではありません。一方で、地域の構造転換により環境や社会構造と調和した持続可能な地域づくりを実現したグッドプラクティスである「環境・まちづくり先進都市」も散見されます。しかしながら、地域づくりにおけるプロセスに関する知見は、各現場において記憶され共有されていることに留まっており、それらの知見を包括的に整理・共有し、他地域の施策につなげていくための手法の開発は実施されていない状況です。

 本研究では、後述するパターン・ランゲージという方法論を用いて、環境・まちづくり先進都市の共創的・漸進的な施策展開における課題解決プロセスのポイントを抽出しパターンとしての記述を行うとともに、先進都市の実践的知見の記述と共有に向けたパターン・ランゲージの枠組みの適用の意義と課題に関する知見を得ることを目的としています。

2. パターンランゲージとは?

 「パターン」とは、繰り返し発生する課題に対して 実践されてきた課題解決のアイデアを文書化したものです。この際、各「パターン」は解決方法だけではなく、それが適用できる「状況」、明確化された「課題」、その背後に働いている力であり解決方法を導出するためのヒントとなる情報「フォース」、そして「解決方法」とそれが実行された後に実現する「結果状況」という一連のフォーマットに基づいて記述されています。そしてパターンを言語のようにつなぎ合わせることで、複合的な問題への解決を目指すものです。これは、「パターン・ランゲージ」としてデザイン理論の研究者であるクリストファー・アレグザンダーによって1970年代に提案され、これまで様々な実践分野において適用が進められてきました。

 地域づくりのプロセスは動的で複雑です。また、それぞれの地域固有の文脈に依存しています。したがって、グッドプラクティスにおいて上手くいった方法を、オールインワンのパッケージとして他の地域に展開することは不可能です。グッドプラクティスにより得られている良いアイデアを活用するためには、一連のプロセスを構成要素に分解して「パターン」として記述した上で、それぞれの地域の文脈において組み上げていくことが有効です。

研究の枠組み図
図1 研究の枠組み

3. パターンの抽出

 パターンの抽出・整理の方法について説明します。図2にその概要を示します。まず、資料文献調査を行い、地域づくりに関する取り組み等を時系列で整理した年表とステークホルダー連関図を作成します。次に、上記の整理より、対象プロジェクトに行政もしくは、それより委託を受けた立場から施策決定に継続的に関与するとともに、多様なステークホルダーとの対話等、現場サイドの実践者として対象の地域づくりに参画したキーパーソンを特定し、インタビュー調査を実施します。インタビューでは、上記で作成した年表とステークホルダー連関図に基づいて課題解決のポイントを確認しつつ、当事者の経験的な視点からみた実態に関する情報を聞き取ります。さらに、得られた情報の妥当性を確認しつつ、当事者からみた視点や知見を包含した地域づくりプロセスのポイントを抽出・整理します。その上で、地域づくりプロセスのポイントからパターンの抽出を行います。抽出したパターンは「パターン・ランゲージ」の規則にしたがって記述し、抽出したパターン同士の連関図の作成や類型化を試みます。これまでに、岩手県・紫波町、宮城県・女川町、宮崎県・日南市の3つの地域において調査とパターンの抽出を実施してきました。

パターンの抽出・整理プロセス図
図2 パターンの抽出・整理プロセス

4. パターンの特徴・構造

 上述の方法により、これまでに28のパターンを抽出することができました。ここでは、一例として「プロジェクトと地域」というパターンの内容を示したいと思います。これは、「一部の地区への集中的な投資は、短期的にはその他の地区における既存の利益を損ねるように見えるため、さまざまなあつれきが発生する懸念がある。」という状況と課題に対して「プロジェクトに多くのステークホルダーが関与する機会を確保しよう。広い視点から議論を進めることで、個別の対立を超えて、プロジェクトを進めることができる。」という解決方法を提示するものです。

 また、28のパターンの内容を検討したところ、以下に示す5つのパターンに分類することができました。まず、1) 新しい方針の下で動き出すための初動の取り組みに関するパターン、次に、2) 地域状況を正確に把握するための調査研究に関するパターン、そして、3) 新しい地域づくりのための組織体制づくりに関するパターン、さらに、4) 地域主体と共創的に地域づくりを進めるためのローカルガバナンスに関するパターン、最後に、5) 地区整備を効果的・効率的に推進するためのプロジェクトデザインに関するパターンです。全体的な特徴として、間接的なアプローチから徐々に直接的アプローチへと移っていくという構造が見いだされました。建物やインフラの整備に直接関連する「プロジェクトデザイン」に関連するパターンは9つであり、それ以外の大半のパターンは「ローカルガバナンス」や「組織体制づくり」などのカテゴリーにのみ関するものであり、地域づくりの間接的な要素でした。間接的な取り組みが、地域づくりをコントロールする上で中心的な役割を担っており、中長期的な視点からプロジェクトを誘導していくというスタンスが重要であることが伺える結果となりました。

岩手県紫波町を対象として抽出したパターンをとりまとめた冊子の写真
図3 岩手県紫波町を対象として抽出したパターンをとりまとめた冊子

5. まとめ

 本稿では、「パターン・ランゲージ」の方法論を用いて、先進的な地域づくりの事例からパターンを抽出し、その構造の分析例を紹介しました。パターン・ランゲージの方法論に基づいて記述されたこれらの知見は、先進地域から他地域へと持続可能な地域づくりの技術・知識・経験を展開するための基礎的な枠組みとして活用することを目指したものです。そのために今後は各地域のコンテキストに応じて必要なパターンを選択して適用していくための方法論の開発に取り組んでいく予定です。

(とがわ たくや、福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

筆者の戸川卓哉の写真

特徴豊かな福島県内外の様々な地域の方々のご協力のもとで災害復興や環境創生に関する研究に取り組んでいます。これからは今回紹介したような研究を通じて、研究と社会、地域と地域を繋ぐような役割を担うことができればと思っています。