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循環型社会の同床異夢:リサイクル社会から持続可能な社会まで

環境問題基礎知識

橋本 征二

 近年様々な場面で循環型社会という言葉が用いられようになりました。環境問題の解決に向けて目指すべき社会像を描くことは重要なことですが,循環型社会がどのような社会であるかについてのイメージは,今のところその言葉を用いる人によって異なっているようです。

 循環型社会に類似した言葉もたくさんあります。雑誌記事等から拾い出してみると,図1の左に示すような言葉が見られます。このように様々な言葉が用いられているにもかかわらず,これらの社会像の違いは必ずしも明確ではありません。違う言葉で似たような社会像をイメージしている場合もあれば,同じ言葉であっても非常に異なった社会像をイメージしている場合もあるようです。それは,こうした言葉に対してどのような英訳を当てているかということからも垣間見ることができます。例えば,循環型社会という言葉の英訳を同じように拾い出したものが図1の右です。リサイクルが進展した社会像がイメージされるrecycling societyと,いわゆる持続可能な発展が実現された社会像がイメージされるsustainable societyでは大きな違いです。当初,循環型社会形成推進基本法の英訳として用いられていたのは,前者に近いrecycling-based societyでした。その後,sound material-cycle society(健全な物質循環社会)に変更されています。循環型社会が,英語の表現上,少し広い意味を持ったことになります。ちなみに,循環型社会に相当する言葉は英語にはありません。

図1.循環型社会に類似した言葉と循環型社会の英訳

 さて,行政上この循環型社会という言葉が登場したのは,1990年に環境庁が設置した「環境保全のための循環型社会システム検討会」まで遡ります。この検討会がとりまとめた報告書には,次のようにあります。

 「「持続可能な開発」を達成するには,地球の大気,水,土壌,野生生物といった資源」や「これらが織り成す生態系(エコロジー)の大循環に適合するような経済活動の在り方を考え,具体化していかねばならない。」「自然生態系の循環とは掛け離れた」人間の経済活動を「自然生態系と適合させるためには,廃棄より再使用(同じものをもう一度使うこと)・再生利用(原料としてもう一度使うこと)を第一に考え,新たな資源の投入をできるだけ押さえることや,自然生態系に戻す排出物の量を最小限とし,その質を環境を攪乱しないものとすることが必要である。こうした経済社会の在り方は「循環型社会」と呼ぶことができよう。」「循環型社会は,単に技術的に資源の循環利用が図られれば良いという理念ではない。」

ここでは,「循環」という言葉に2つの意味を持たせて循環型社会を説明しています。一つは,「生態系の大循環」「自然生態系の循環」などの表現に見られる「自然の循環」(炭素,窒素,水,空気などの物質の循環のほか,季節の移り変わりや生物の再生産の過程などの状態の循環も含まれるでしょう)であり,もう一つは「再使用」「再生利用」「資源の循環利用」などの表現に見られる「経済社会における物質循環」です(図2参照)。「自然の循環」には,その循環を乱さないように資源の採取や環境への負荷を管理していこうという意味が込められており,「経済社会における物質循環」には,資源を経済社会の中でできるだけ循環=リサイクルして利用していこうという意味が込められていると言えます。このうち,「自然の循環」については,自然の循環が乱された状態であるところの気候変動問題や酸性雨問題をはじめとして,いわゆる環境問題に分類されるさまざまな問題に対処していこうという意味が含まれるでしょう。

図2.自然の循環と経済社会における物質循環

 そのちょうど10年後,2000年には循環型社会形成推進基本法が制定され,法律の中で循環型社会が初めて定義されました。第2条第1項にはこうあります。

 「「循環型社会」とは,製品等が廃棄物等となることが抑制され」,「製品等が循環資源となった場合においては」「適正に循環的な利用が行われることが促進され」,「循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分」「が確保され,もって天然資源の消費を抑制し,環境への負荷ができる限り低減される社会をいう。」

 この定義では,循環型社会を実現するための手段としての「経済社会における物質循環」が述べられています。「もって」以下は発生抑制,リサイクル,適正処理の結果論ではあるものの,これが循環型社会の目的であると言えるでしょう。ただし,その目的が何のためであるかについては,ここでは言及されていません。当初の英訳がrecycling-based societyであったこともうなずけます。もちろん,「自然の循環」に関連する記述もあります。第8条では,この基本法の取り扱う範囲は「経済社会における物質循環」ではあるけれども,それぞれの施策を適切に連携させることで「自然の循環」も考慮すべきことが示されています。

 以上の2つの例は非常に代表的なものですが,同じ循環型社会でも,「自然の循環」を中心に考えていくのか,「経済社会における物質循環」を中心に考えていくのかで,社会像や対策分野は大きく異なると言えます。「自然の循環」を中心に考えれば,温暖化対策,水環境の保全,生態系の保全なども循環型社会の重要な要素となり得ますが,「経済社会における物質循環」を中心に考えれば,いわゆる廃棄物のリサイクルが主要なターゲットとなってきます。また,ここで見てきた「自然の循環」や「経済社会における物質循環」の他にも,「環境と経済の好循環」と言ったようなかたちで「循環」が用いられることもあります。さらに,適正な物質循環を確保するためには,人の関係性や情報の「循環」とでもいうべきものが重要であるとの指摘もあります。輪廻に関連づけて循環型社会の精神的側面が論じられることもあります。このように,「循環」という言葉にどのような意味を込めるかで,循環型社会のメッセージは変わってきます。今後,「循環」の意味するところやその社会の目的について議論を深め,概念を形成していく必要があるでしょう。

 (はしもと せいじ,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)

執筆者プロフィール:

1970年岡山県生まれ。最近ハマっているのが和太鼓。ドンドコ打ちまくれば気分もすっきり。一緒にやってくださる方募集中。あなたも和太鼓の鼓動とエネルギーの虜になるはず?