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循環型社会の形成に向けた研究の取組について

シリーズ政策対応型調査・研究:「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究」から

木野 修宏

1.循環型社会形成推進・廃棄物研究の背景

 21世紀を迎え,早や5年が経過しました。2000年に「循環型社会形成推進基本法」が成立・施行されましたから,日本が,明確に“循環型社会”の形成に向けて歩み出してからも同じ年月が経ったことになります。“循環型社会”の姿は,見えてきましたか?  現実は,循環型社会という言葉自体,まだまだ世の中に浸透していない,あるいは,共通の概念が構築されていない状況のようです(本号5頁からの記事参照)。一方,2005年流行語大賞では,「小泉劇場」などの裏で,「MOTTAINAI(もったいない)」という言葉が候補語として挙がったように,モノを限りある資源として有効に使うことの大切さは,日本でも(再)認識されつつあるようです。  さて,国立環境研究所では,環境省発足に伴い,2001年1月から廃棄物対策や循環型社会形成の研究に本格的に取り組み始めました。同年4月には,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター(以下,「循環センター」)を新設し,同センターを中心に5ヵ年の研究計画(中期計画)に沿ってこれまで調査・研究を進めてまいりました。循環センターは,廃棄物問題という緊急な政策課題に対応するための“政策対応型研究センター”として位置付けられ,研究成果を環境省等の政策に活かし,循環型社会の実現を目差すことが特徴です。本稿では,限られた紙面ではありますが,その5年間の活動を振り返ってみたいと思います。

2.これまでの成果

 循環センターのめざすところは,20世紀型の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会から,さまざまな研究と政策のツールを駆使して,物質循環を基本とした環境低負荷型で一次資源利用抑制型の循環型社会を構築することです。この実現のために,おおまかに分けて以下の3つの方向からのアプローチによる調査・研究を行ってきました(図1,2)。

図1
図1.循環センターにおける3つの研究の柱
図2
図2.研究分野と主な成果

(1) 循環型社会への転換のための仕組みづくり

 現実にある廃棄物問題を片づけつつ,将来の循環型社会実現を目差すことは容易ではなく,環境行政,企業,市民,他の研究機関などが協働して取り組むことが必要です。そのためには,共通の方向性,目的を設定し,その実現度や有効性を測るツールを揃えることが大切です。そこで,一つ目の研究テーマは,国や地方での廃棄物や資源の循環の流れをシステムとしてとらえ,現状・問題点・方向性を示すとともに,その解析手法を確立することです。

 研究の成果の代表例をいくつかご紹介します。

・モノの流れ(マテリアルフロー)の分析に基づく研究成果が,資源生産性(天然資源投入量あたりのGDP)の指標をはじめとして,政府の基本計画に循環型社会形成のための数値目標として活用されました。

・ライフサイクル分析(LCA;製品の製造から廃棄に至る過程において必要な資源・エネルギーの消費量などを確かめる方法)の手法開発を進め,プラスチックリサイクル技術に関する研究成果が,政府の容器包装リサイクル法の見直しの議論に活用されました。

(2) 廃棄物の資源化・処理・処分のための技術

 循環型社会実現のために,製品が廃棄物となる場合の取組の優先順位が,法律で,第1に発生抑制,第2に再利用,第3に再生利用,第4に熱回収,最後に処分,と定められています。個々の製品が高性能になり,小型化,複雑化していく中で,このような廃棄物の有効利用を進め,有害なものは安全に処理・処分するためには,技術の高度化が欠かせません。二つ目の研究テーマは,廃棄物の資源化や適正な処理・処分を支える技術とそのシステムの開発に関する研究です。

 研究の成果の代表例をご紹介します。

・廃棄物から,燃料電池のエネルギー源となる水素を取り出す技術開発を,高温で熱分解しガス化する方法と微生物発酵を利用する方法の両面から進め,地域ごとのゴミの排出特性を活かしたシステムを構築することを目差しています。

・最終処分場から高濃度の有毒ガス(硫化水素)が発生する原因の究明を行い,その発生メカニズムと発生防止対策を提言した研究成果が,政府による基準見直しの議論に活用されています。

(3) 資源循環・廃棄物処理の安全性の制御

 廃棄物には,汚いもの,有害なもの,というイメージがありますが,ダイオキシン問題をはじめとして,実際に社会で数々の問題が発生しています。廃棄物に含まれるあるいは処理プロセスで生成される化学物質をコントロールし,それらが持つ環境影響のリスクを管理することは,(2)で紹介した5つの取組を進め,安心・安全な循環型社会を構築する上で必須です。研究テーマの3つ目は,廃棄物が利用されるあるいは処理・処分される過程において,有害物質を確実に検出する手法,安全に分解する方法に関する研究です。

 研究の成果の代表例をご紹介します。

・バイオアッセイ(生物や細胞を用いて化学物質の有毒性を測定する方法)によるダイオキシン類の簡易検出方法の開発成果が,廃棄物焼却排ガスなどの(法律に基づく)測定法の一部に採用されました。

・廃棄処分が難しいため我が国で大量に保管され続けているPCBに関し,分解技術のメカニズム研究と開発を実施した成果が,政府による処理事業の技術評価に活かされるとともに,有害廃棄物の国際的な越境移動を規制する条約(バーゼル条約)のガイドライン策定に活用されました。

3.今後に向けて

 循環センターでは限られたリソースを活かし,行政ニーズに応えるための調査・研究は着実に実施されてきたと思われます。一方で,外部の有識者からの指摘事項も含め,今後の課題もあると思います。一つ目は,中長期的な廃棄物システム全体としての展望を持つこと。これは,喫緊の対応に日々追われがちな廃棄物行政などに中長期的なビジョンを示し科学的にリードすることと,循環センターで実施する各個別の研究テーマが,現在や将来のあるべきシステムの中でどのような位置付け,優先度にあるかを明確にしながら統合的に実施されることの両側面があります。

 二つ目は,成果の発信を図ること。環境省などの行政機関には,循環センターの活動・成果が十分伝わり,政策を通じ社会実現するルートはしっかりしたものがありますが,地方自治体,企業,市民,NGOなどに対して,その成果やビジョンを伝え,センターの成果の有用性を認めていただくべくアピールしていくことも,公的資金による研究の社会還元と,循環型社会実現の直接の担い手への働きかけの両方の意味で重要です。

 これらを通じて,故・森田恒幸博士が指摘した国環研の“「学」としての政策研究”(国環研ニュースVol.19 No.2)に,より近づくことができるかと思います。

4.おわりに

 循環センターが設立されて5年の間に蓄積された学術的成果は,今後も順次取りまとめられ世に出て行くことが期待されます。一方,最も大きな成果は,政策対応型調査・研究センターとしての研究風土の醸成だと感じています。5年前には全国から背景の違う研究者が集まり,組織としての体をなすことからスタートしたはずですが,歴代センター長のリーダーシップと,所属研究員や非常勤も含めた職員のセンターを支えるんだという心意気が結実し,政策・社会貢献に結びつく質の高い調査・研究を実施するための,やる気と誇りをもった人材の集うセンターになりつつあると感じています。そのような組織には,自ずと成果も付いてきますので,現場体験に根ざしたシニアな研究者の経験と意思を若い研究者がうまく引継ぎつつ,2006年度から始まる新たな研究計画期間においてもますます実力を蓄えることができるよう,私も微力ながら貢献していきたいと思います。

 (きの のぶひろ,循環型社会形成推進・廃棄物 研究センター研究調整官)

執筆者プロフィール:

2004年7月から着任した,センター3代目の研究調整官。環境省以外で働くのは初めて,廃棄物行政経験もほとんど無く,着任当初は,自分に何が求められているのか,一体何ができるのか,かなり悩んだ日々もありました。今となってみれば,そんな余裕を持っていた時期もあったなあ,と遠い過去の記憶です・・。