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自然利用強化型適正水質改善技術の共同開発に関する研究

研究プロジェクトの紹介 (平成10 年度終了開発途上国環境技術共同研究)

稲森 悠平

 本研究は,タイ王国を研究対象とし平成6 ~10 年度に 実施された終了課題である。

 タイ王国では生活排水,産業排水等の未処理放流により水環境の汚濁が著しく進行し,安全な水資源を確保する上での対策が必要とされている。特に東南アジア諸国の中にあってタイ王国では生活排水の汚濁負荷に対する割合が極めて高く,全汚濁負荷の75 %を占めている。また,近年では,富栄養化湖沼の水源において,従来の水質汚濁のみでなく,WHO (世界保健機関)の飲料水質ガイドラインに位置づけられた有毒物質ミクロキスチンを含有するアオコの異常増殖の顕在化が懸念されている。それゆえ,水資源の保全のために,これからさらなる研究が必須なことは当然であるが,予備的研究としての有毒アオコの実態解明及び富栄養化対策は水環境を修復していく上で極めて重要な課題としてとらえられた。タイ王国においては,富栄養化対策は発生源対策,直接浄化対策ともに著しく遅れているのが現状であり,その対策技術の確立は緊急を要しているため,対策の確立化を図り,環境衛生を向上させる必要があった。

 これらの点に鑑み,1 )タイ王国の水域の水質に関する研究 2 )予備的研究としてのミクロキスチン現存量に関する調査 3 )水処理プロセスにおける水質改善効果の実態調査に関する研究 4 )直接浄化対策としてのエコエンジニアリングを活用した水質浄化に関する研究5 )熱帯地域における生物活性と処理の高度化に関する研究を,タイ環境研究研修センター(EnvironmentalResearch and Training Center ;ERTC )及びアジア工科大学(Asian Institute of Technology ;AIT )と共同で行うこととした。

 その結果,(1)人口の密集しているクローン(運河)では水質汚濁の進行が著しく,汚濁負荷としては生活排水の占める割合が大きく,衛生面で極めて大きな問題を有すること,さらに,タイ王国の飲料水源として重要な役割を果たす湖沼及び貯水池の多くにおいて富栄養化の進行していることが明らかとなった。
 (2)ダム湖Kwan Phayao やBang Pra Reservoir といった水道水源において,WHO の飲料水質ガイドラインに位置づけられたミクロキスチンを含有するアオコの異常増殖のみられることが明らかとなった。
 (3)ヨシやガマといった水生植物を植栽した人工湿地が,高度で安定した浄化能力を有すること,根圏への酸素供給により高い硝化・脱窒能力を有すること,ヨシやガマのコンポスト化技術の重要であること等が明らかになった。しかしながら,ヨシやガマといった水生植物は再利用が難しく,環境負荷の少ない社会を構築する上では限界があるため,これからは食物源としてリサイクルが可能な水耕植物を活用した浄化技術の必要なことがわかった。
 (4)タイ王国の食品工場をはじめとする事業所での排水処理施設や,人工湿地を活用した低濃度汚濁水の処理施設において,処理効率を高める上で原生動物や後生動物の定着能の強化の必須であることが示唆された。さらに,タイ王国の排水処理施設等から原生動物を分離し,様々な温度条件下培養し,増殖特性を調べたところ温度の影響を受けやすく,高温において高い活性を有することが明らかとなり,熱帯地域の微生物のこのような特性を考慮した合併処理浄化槽の開発と同時に運転管理の適正化が極めて重要な位置づけにあることがわかった。
(5)食品工場の排水処理施設の沈殿槽において観察されたグッピー等の魚類の役割を室内実験により検討したところ,細菌,菌類,原生動物等が浄化に貢献する従来からの生物学的排水処理に,グッピー等の高次捕食者を組み込むことにより余剰汚泥の減少することが示された。また,微小動物や小型動物の捕食,増殖活性に関するさらなる知見の収集,及びナマズ等食用可能な魚類を活用した資源回収型の排水処理システムの開発が今後必要なことがわかった。

 すなわち,これまでのタイ王国における研究を通じて,AIT やERTC 等のカウンターパートを確立することができた。今後,残された課題,また新たに発生した重要な課題について研究を充実させることはタイ王国の水環境修復に貢献するところが多大であると考えられる。当研究で目標とした自然利用強化型浄化技術は省エネ・省コスト・リサイクル型の極めて実用性が高く住民による管理が可能なシステムであり,制度化され,普及の基盤が整備されれば,タイ国内はもちろんのこと熱帯地域における水質改善が必要な水源域において極めて甚大な効果をもたらすと考えられる。このような観点から,さらに研究の強化,重点化を図った基礎と応用の研究を推進することは,真の国情に適した技術を定着させていく上でも極めて重要であると考えられる。

(いなもり ゆうへい,地域環境研究グループ開発途上国環境改善(水質)研究チーム総合研究官)

執筆者プロフィール:

水環境改善の国際化を目指して,発生源対策としての浄化槽をはじめとするバイオエンジニアリング,水生植物,土壌等を活用したエコエンジニアリング,及びそのハイブリット化の技術開発を推進している。毎日,空手で体を鍛え,エージェンシー化後においても研究者として発展でき,環境省に貢献することを目標として努力を継続している。