地下水位の季節的な変動と地盤沈下
研究ノート
岩田 敏
いわゆる典型七公害に含まれる地盤沈下という現象は地下水の過剰摂取に伴う地下水位の低下により発生する。地下水位が低下することにより,粘土層が圧密をうけて圧縮し,地盤沈下がおきる。粘土層に作用して圧密を起こさせる力を有効応力といい,その地層の上載圧から地層の間隙水圧を引いたものに相当する。水位が低下すると,地層の間隙水圧も小さくなるために,有効応力が大きくなり,圧密が進行し地盤沈下が起きる。また,軟弱な地盤の上に盛土を行った場合などでも沈下が起きる。これは,間隙水圧は変化しないものの上載圧が大きくなるために有効応力も増加することによる。圧密を受けると粘土粒子がつくる骨格構造が変形し間隙を満たしていた間隙水が徐々に排水される。このため,有効応力が減少しても粘土層はほとんど膨張しない。
圧密の基礎理論はテルツァーギによって確立されており,実用化されている。しかし,これらは盛土の例のように有効応力が一定である場合に適用できる理論である。しかし実際には,地下水位が変動するために有効応力も変動するので,テルツァーギの圧密理論だけでは,地盤沈下の問題は解決することができない。水田のかんがい用や豪雪地の消雪用に地下水を用いている地域で,需要期には地下水位が低下するものの非需要期には元の水位に戻るため一年間を平均すると地下水位の変動がほとんどないのに著しい地盤沈下が認められる地域がある。昭和59年には,新潟県上越市で101mmの地盤沈下が観測されているが,これなどはその一例である。
季節的に地下水位が大きく低下する地域では,粘土層がくり返し荷重を受けることになる。このような地域での地盤沈下機構を明らかにするために,現地で採取した乱さない粘土試料を用いた繰返し圧密実験を行った。図に結果の一例を示す。実験は,12.8kg/cm2と6.4kg/cm2の荷重を60秒ずつ120周期で繰り返した場合である。これは,実地盤では1年のうち水位低下が6ヶ月継続するのに相当する。破線は12.8kg/cm2を継続して載荷し繰返しを行わなかった場合である。繰返し回数が少ないうちは,繰返しを行わなかった方が大きい沈下量を示しているが,最終的には繰返しを行った方が大きい沈下量を示すようになる。これは,かんがいや消雪によって季節的に地下水位が大きく低下する地域では,地盤沈下の進行が止まりにくいことを示している。