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タイからの手紙

海外からのたより

安部 喜也

 しばらく原稿用紙を見ずにすんでいましたが,ご依頼なのでペンを取りました。タイのONEB (Office of the National Environment Board : 環境庁)に大気汚染物質測定のアドバイザーとして着任して半年余り経ち,この国の様子が少しづつわかってきたところです。

 バンコクは人口600万の大都会で,公害は古典的なものから新顔まで何でもあります。街中を10分間も歩けば実感できる,大気汚染,騒音,悪臭,水質汚濁はじめ地盤沈下,ごみ,化学物質問題,交通渋滞(写真),洪水,……。それぞれが複雑にからんだ都市問題で,研究対象としても興味があります。地方では森林破壊が大問題で,政府は今年は“資源と環境保護の年(右上シンボルマーク)”として環境保全のキャンペーンを進めています。しかし,この国ではひどくなっている現状の改善よりも新しく起こる事への対応に関心があるようです。近代化,工業化が急速に進んでいるためかもしれません。一時新聞を賑わした話題として,新しい高速道路を3kmばかり,水道原水水路の上を通す計画の是非が,自動車排気からの鉛汚染を理由に議論されました。沿道住民が毎日直接大気中の鉛を呼吸していることや,既存の水路への影響でなく,3kmの部分だけを問題にしたのはアンバランスな感じを受けました。しかし,その後これがきっかけとなって,一般の鉛汚染も新聞に取り上げられるようになりました。

 地球規模の汚染問題については,ONEBは今のところ特別な動きを示していません。局地的な汚染問題を抱えている熱帯での発展途上国にグローバルな問題の認識と理解を得ることは,この問題の研究にあたって重要なポイントの一つです。熱帯は地表の半分近くを占めるわけですから。

 タイでは目下,国際協力事業団(JICA)の協力で環境研究研修センターの設立計画が進行中で,完成の暁には国公研からの協力が期待されています。“百聞は一見にしかず”といいます。熱帯での公害を是非一見においで下さい。豊富な熱帯の果物,見事なランの花も待っておりますので。

(あんべ よしなり,計測技術部大気計測研究室長)

資源と環境保護の年のシンボルマーク
交通渋滞の写真