イギリスの環境研究と生態学
研究ノート
可知 直毅
イギリスにおける環境研究は,英国自然環境審議会(Natural Environment Research Council)によって統括されているが,その下部組織として Londonの北約200km,Englandのほぼ中央部に位置するシェフィールド大学に設置されている比較植物生態部門(Unit of Comparative Plant Ecology)で研究する機会を得たのでその概要を報告する。
ここでは特に植物にかかわる問題について生態学的なアプローチで現在4つのプロジェクト研究が行なわれている。すなわち,(1)総合スクリーニング計画,(2)植物による環境資源の獲得とその利用,(3)生物群集生態学,(4)適応戦略理論と予測モデルの4テーマである。特に,総合スクリーニング計画は20年間におよぶプロジェクトで,植物の温度,光,栄養条件の変化に対する光合成活性,生長反応,植物の形態変化などの諸特性を,ヒース草原,森林,草地などイギリスの主な植生を代表する多くの植物について比較することによって,様々な環境変動に対する植物の反応のデータベース化を目指している。
これらの研究の最終的な目的は,牧畜,レクリエーション,重金属汚染,酸性雨といった人間活動による様々なレベルの植生影響に関する問題を予測評価し解決するための基礎データを提供することで,特に自然草地植生の保全にかかわる研究が精力的に行われてきた。イギリスでは自然環境保全がいわゆる都市型の公害問題と並んで環境研究の重要な部分を占めている点が印象的であった。一方,日本では環境研究の中心が都市局在型の環境汚染にあり,自然環境保全は環境研究の一分野として確立していない感がある。しかし,現在懸念されている地球規模を含めた広範囲におよぶ環境問題はむしろ自然生態系に、より顕著に現れる可能性がある。こうした問題の予測と解決のためには局所的な事例研究だけでは不十分であることは論を待たない。より広い視野に立った基礎研究の必要性と環境研究の中での生態学者の責任を改めて感じた。