リスク評価科学事業連携オフィス 生態毒性標準拠点
【研究施設、業務等の紹介】
鑪迫 典久
生態毒性標準拠点は、安全・安心な社会実現を目指し、さらに行政が取り組む施策等にも資する研究開発及び研究事業を行う拠点として設置されたリスク評価科学事業連携オフィスの中で、広く生態毒性に関する研究分野で国内をリードする標準拠点となることを目的としています(図1)。
具体的には、化審法や農取法など化学物質管理に関わる行政施策の生態リスク評価に資する生態影響試験法の標準化、OECD(経済協力開発機構)や米国EPA(米国環境庁)などとの国際的な連携の下での新たな試験法開発、国際間リングテスト(新しく提案された試験方法について、共通の条件下で複数の国で再現性を確認するシステム)への日本国代表としての参加、試験実施の支援やISO(国際標準化機構)やOECDなど試験法の国際標準化への対応が挙げられます。試験方法の標準化は、得られる試験結果の妥当性、信頼性、再現性に関連しており、生態毒性試験結果に基づく様々な管理基準値の策定などを行う上でそれらは重要な意味を有しています。特に内分泌かく乱化学物質(Endocrine Disrupting Chemicals)、PPCPs(Pharmaceuticals and Personal Care Products)、ナノマテリアル(Nanomaterials)等が含まれる新興化学物質(Emerging Chemicals of Concern)については、それらの生態影響評価手法の更新、国際的な枠組みを踏まえた上での新たな評価手法の開発および標準化が必要とされています。また、米国WET(Whole Effluent Toxicity)等を参考にした新たな排水管理手法の導入検討や、化学物質の複合影響に対する考え方の構築も行なっています。
次に、生態毒性試験に用いることができる試験生物の安定供給が挙げられます。水環境実験施設(NIESアクアトロン)では教育、試験・研究の目的で使用される水生実験生物を安定的に供給することによって、生態毒性試験の標準化に寄与しています。継代飼育された系統の明らかな生物で試験を行うことによって、再現性の高い生態毒性試験結果を得ることができます。特に、オオミジンコにはNIES、メダカとゼブラフィッシュにはNIES-Rという国立環境研究所の名を冠する標準生物の系統があり、既に国内外で広く用いられています。最後に、生態毒性試験の普及啓発のために生態毒性実習セミナーを年に2回開催しています。座学だけではなく実際に試験を体験することによって、ガイドラインに記載されていない様々な試験のノウハウに直接触れる機会となるばかりではなく、生態毒性標準拠点を中心として、実習セミナーに参加した大学、地方環境研究所や民間試験機関などのお互いの連携も強化することができ、試験手法の普及・啓発に大きく貢献しています。
上記の活動を軸として生態毒性試験の基盤整備等を進めるとともに、生態毒性分野の中核機関として最新の研究開発の成果を国内外に発信し、新たな行政施策形成の基礎として活用するための研究事業および科学的なリスク評価のための研究事業を実施していきます。