地球温暖化研究棟
新設の研究施設の紹介
井上 元
今回竣工した地球温暖化研究棟(写真)は,英文名をGlobal Warming Research "Hall"と言う。これは「内外の地球温暖化の研究者や関心のある一般の人が研究の場や情報を求めて集う場所にしたい」という意図を込めた命名である。ここには地球環境研究センターをはじめ,気候変動予測(GCM)研究,気候変動影響研究,温室効果ガスのモニタリング,森林吸収にかかわる遠隔計測や地上での観測研究,および,低公害車や環境低負荷建築など対策技術の研究グループなどが集まった。また,研究成果の理解を通じて一般の方々に温室効果ガスの排出削減の必要性を認識して頂けるよう,展示や映像などをお見せする空間もある。
国立公害研究所から環境研究所に名称変更し,地球環境や自然保護の研究に新たに重点的に取り組む方針を決めてから11年,ようやくその最大の課題である温暖化問題に取り組む研究の場が出来上がったといえる。竣工披露の場で来賓の松野太郎先生が「この建物が古びてきたとき,ここからこのような成果が出たと言えることを期待する」旨の祝辞を述べられたが,正にそれを目指して第二期の研究が始まろうとしている。
第二期とよぶのは次のような経緯からである。11年前の改組前にも先駆的な研究があったとはいえ,本格的に地球温暖化の研究に取り組み始めたのは,この時「地球環境研究総合推進費」「地球環境研究グループ」「地球環境研究センター」が生まれた時である。誤解を恐れず敢えて言うなら,この分野の素人が集まり手探りで研究を開始したのである。この時から「分野を越えた研究者の結集」「長期のモニタリングを継続する必要性」を保証する研究の場(建物)を要求してきたが,その実現は容易ではなかった。しかし今,未熟とはいえこの分野における環境研の存在感は大きくなったと自負している。戦略が定まり,場所が与えられ,資金がそれなりにあり,人も育っている。わたしはこの建物が古びたとき,必ずここから多くの世界的に注目される成果が出たと評価されることを信じて疑わない。
この建物には,スーパーコンピュータの出力を一時ストックするメモリーシステムや,マルチCPUの画像データ処理装置など情報機器,温室効果ガスなどの最高水準の計測を目指すラボ,森林による二酸化炭素吸収を実測する機器の開発・整備を行う実験室,遠隔画像計測の実証を行う環境実験施設,高分解能で太陽光吸収スペクトルを測定する装置,様々な環境で自動車の排ガスを計測する施設などがある。しかし,それらは単なるツールであり直ぐに陳腐化するものである。重要なのはわれわれが実施しているフィールド観測であり,所外の研究者と連携したモデル等の研究の発展であり,この建物はその拠点にすぎない。
そうは言っても本稿は建物の紹介であるから特徴点を述べる。中央のエントランスは吹き抜けで,各階の階段付近には人々が気軽に集える空間がありよく利用されている。一階の展示ギャラリーには温暖化研究の現状を紹介するパネルが常設され,交流会議室では未だ開発途上であるが研究を紹介する映像をお見せできる。2~3階には北面に実験室,南面に居室が配置され,居室のすぐそばに樹木の緑が美しい(樹木を切らずに工事をすすめた努力に感謝)。設計の段階から「温暖化研究をやるなら出来るだけ環境に配慮した建物にしよう」ということで,屋上緑化,日射・通風対策など幾つかの工夫をした。それだけでなく「その効果を研究しよう」と研究グループも結成された。文末ながら国土交通省筑波施設管理センターや所の施設課の方々の大きな努力があったことを記して感謝したい。
執筆者プロフィール
昔の「子供の科学」愛読者は現在も不評を買いながらも工作室や実験室で装置を作るのが生き甲斐。遊んでいると言われてきた「カイトプレーン(模型飛行機)」も実用化の一歩手前で面目をほどこしている。