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環境ホルモン総合研究棟

新設の研究施設の紹介

白石不二雄

 環境ホルモン総合研究棟は,平成13年4月,目的対応型の研究施設として当研究所の独立行政法人化とともに竣工しました。環境研の正門からもっとも奥まったところに位置し,圃場の緑地を前景に木々に囲まれた環境研の建物にしてはシンプルな外観(?)の四階建てビルディングです(写真1)。当研究施設は,近年クローズアップされている環境ホルモン問題に総合的に対応するための研究施設として期待されており,様々な環境ホルモンに関する試験研究が実施できるように設計されております。環境ホルモン総合研究棟の建物としての特徴は実験スペースにおいて内壁や床など,建築材に含まれる環境ホルモン物質の室内汚染を防ぐという思想のもとで環境ホルモン作用の疑われている化学物質を含む建築資材を極力抑えた構造になっていることです。

写真1 環境ホルモン総合研究棟
写真1 環境ホルモン総合研究棟

 各階ごとに主な試験研究について紹介しますと,一階のフロアは生態系への環境ホルモンによる影響を研究するための淡水系の生物影響試験スペースと海水系の生物影響試験スペース,及び核磁気共鳴断層撮影(MRI)装置などの大型測定機器が設置された別棟からなっております。淡水系試験スペースでは,環境ホルモン作用が疑われる化学物質を小型魚類に曝露できる流水式連続曝露装置が設置され,ヒメダカによる影響評価試験が行われております(写真2)。また,アフリカツメガエルを用いたオタマジャクシから成体への変態を通じて甲状腺機能のかく乱作用等の研究も行われています。海水系試験スペースでは,海産生物,特に巻貝類を対象に生殖器や生殖輸管の形態異常,生殖機能の低下などの実態調査が行われており,今後,実験室レベルでの化学物質を溶解した海水曝露試験も行われることになっています。別棟に設置されたMRI装置は,環境ホルモンがヒトの健康に与える影響を解明するための研究手法の一つとして期待されております。当施設に設置されたMRI装置は磁場強度が医療機関などに設置されている診断用機器の3倍以上大きく,より解像度の高い画像を,より高感度に取得することができることから,環境ホルモンのヒトの脳・神経系への影響についての研究を行うことになっています。

写真2 メダカ用流水式連続曝露装置
写真2 メダカ用流水式連続曝露装置

 二階のフロアは環境ホルモン物質を分析・測定するための実験スペースとなっており,バイオアッセイや各種の分析機器による環境ホルモンの測定が行われています。バイオアッセイを用いた試験は,女性ホルモン受容体や男性ホルモン受容体の遺伝子,及び甲状腺ホルモン受容体の遺伝子が組み込まれた酵母を用いて,環境ホルモン作用が疑われる数百の化学物質についてスクリーニングが行われ,また,河川水や排水など環境水の環境ホルモン活性をモニタリングするための研究も行われております。分析機器を用いた研究としては,環境試料中の環境ホルモン作用が疑われている化学物質の分析・測定が行われており,例えば,ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて環境ホルモン作用を有すると疑われている化学物質については,公的な目標である測定濃度よりさらに一桁から二桁,低い濃度まで測定されます。また,女性ホルモン(17β-エストラジオール)のように,非常に微量でもその影響が現れると考えられる物質の分析には負イオン化学イオン化(NCI)質量分析法などの手法を用い,より低濃度まで測定し,これらの物質が環境中でどのような挙動を示し,どのような影響を及ぼしているかを研究しています。

 三階フロアは環境ホルモン総合研究棟の心臓部とも言える機械室がほとんどを占めており,施設全体の温度制御,空調のほかに,魚類の試験用浄化水,器具洗浄用純水等を供給しています。

 四階フロアは環境ホルモン・ダイオキシン類の情報処理システムを行うスペースと実験動物を用いて環境ホルモン影響を研究する実験スペースになっています。情報処理スペースでは,環境ホルモンやダイオキシンなどについて,モニタリング・影響評価・環境動態を複合的に扱う情報システムの構築に関する研究が行われております。動物系実験施設では,ラットやマウスなどを飼育するための環境整備が行われつつあり,完成すると環境ホルモンが脳・神経に及ぼす影響について,分子レベル,組織・器官レベル及び個体レベルで,総合的に研究が行われることになっております。

 4月に竣工したばかりの当施設は,未だ稼動していない実験スペースもありますが,職員のほかにポスドクフェロー,派遣職員など多くの若手研究員が様々なテーマで研究を行っており,活気あふれる場となっております。なお,当研究施設は環境ホルモン研究のメッカとなるべく,共同研究施設として所外の研究者にも開放されています。

(しらいし ふじお,環境ホルモン・ダイオキシン研究プロジェクト)

執筆者プロフィール

 1952年鹿児島県生まれ。獣医学科出身の植物愛好家。趣味は土,日の畑いじりと20年来の家庭用生ゴミの堆肥化研究(?),スポーツはテニスを少々。趣味の後の350cc1本では足りなくて蒸留酒に手を出している人生です。