ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

生物の保全と自然選択

環境問題豆知識

竹中 明夫

 同じ種類の生き物でも個体によって形や性質が少しずつ違っていることが多い。その違いが,生きのびる能力や残す子供の数に違いをもたらすとしよう。次の世代では,よりよく生きのびてより多く子供を残した親の子供が多くなるのは当然である。もしこのような性質の違いが子供に伝わる遺伝的なものならば,世代を重ねるとともに「よく生きのび,より多く子供を残す性質」を受け継ぐ子孫たちが増えていく。これが自然選択による進化である。生物集団のなかで,ある性質は広まり,ある性質は消えていくというプロセスは,生物が環境に適応するうえで大きな役割を果たしている。

 どんな性質が選択されるかは環境によって違うし,その生物の生き方にもよる。広い草原で動物を狩るチータでは高速で走る能力が進化したし,暗闇で飛びまわるコウモリでは音の反射でエサの位置を知る能力が進化した。虫を捕まえる食虫植物は,栄養が不足しがちな環境での適応の結果である。生物を保全すると言っても,本来の生育環境から切り離したところで生かしておくだけでは,自然選択を経てそなわった巧みな生き方を発揮させることはできない。

 ところで,本来は生物圏になかった物質を人間が作り出したり掘り出したりして撒き散らせば,そのような物質の存在を前提にした自然選択を受けていない生物には迷惑なことが多い。経験したことのない環境にさらされるという点では,外来生物の侵入も同様だ。人間が持ち込んだ生物が,捕食者,競争相手,寄生者などとして,もともとその場所にいた生き物の生存を脅かしている例は枚挙にいとまがない。

 もちろん,世代を重ねるにつれて新しい環境に適応していくかもしれない。しかし,遺伝子の突然変異と自然選択による適応には,長い時間がかかる。環境の変化が急速であるほど,適応するまえに死に絶えてしまう危険は大きい。人間活動による大規模で急激な環境の変化は,多くの生物を絶滅へと追いやっている。「生き物には適応力があるから...」などとたかをくくっていてはいけない。

(たけなか あきお,地球環境研究グループ 温暖化現象解明研究チーム)

目次