行政改革と日本の研究
主任研究企画官 小野川 和延
7月から国立環境研究所に勤務することとなった。かつて地球環境研究の予算を担当して一部の研究者とはおつきあいいただいたものの,これまでの25年余をもっぱら行政分野で過ごしてきたので,研究所に対する理解は,自ずとその視点からのものである。
国環研への異動の内示をいただいた際,ウィーン郊外のIIASAにいた。行政を離れて,同じ研究機関という性格の組織に身をおいていたわけであり,その間,ヨーロッパの他の研究機関を訪ねて,あるいはIIASAを訪れる各国の研究者と,研究の方向性や研究者をとりまくそれぞれの環境について,議論する機会を持つことも多かった。
これらの経験を通じて,すなわち,行政から見た研究,外国から見た日本の研究,という視点から国立環境研究所を始めとする日本の研究所を見たとき,やや気になった点がある。
カスタマーオリエンテッドな研究でない限り,研究費は付いてこない。これは世界の研究機関にとって現在の共通認識である。大学においてすら例外ではなく,オックスフォードにおいても,研究目的と社会の要請を合致させ得た教授のみが大学に残りうる。そこには必ず,自らの研究に対する外部からの評価に対する意識と,その意識の上に立っての自らの研究成果の積極的な売り込みの姿勢がある。それなくしては研究費,さらには自らのポストそのものの確保すらおぼつかない。
ひるがえって日本では,昨年の科学技術基本計画の策定といった流れも受け,行財政改革が叫ばれるなかで,研究予算に対しては,比較的暖かい配慮がなされている。しかし,この予算を使用する日本の研究者側には,何のための,誰のための研究か,という視点を始めとしたカスタマーに対する意識が,欧米との比較において,残念ながら十分とは言えないし,その成果の主張も積極的とは言い難い。
行政改革の議論が急ピッチで進められつつある。その中で国立試験研究機関のあり方をめぐっての議論はまだまだ総論的であるものの,それぞれの研究所の今後は,その存在の意義を見極めつつ,個別に定められていくわけであり,その時期は目前に迫っている。
このような流れの中で,我々が意識しておかなければならないのは,カスタマーという視点の認識を踏まえての,自らが行う研究の存在の必然性の検証と主張とであろう。その答えが世の中を納得させられるものであれば,研究所の性格がどのようなものに変わろうと,研究者を含めて,その研究自体の必要性は不変のはずである。
執筆者プロフィール:
前職は国際応用システム解析研究所 ( IIASA ) 上席研究員。環境庁大気保全局自動車環境対策第一課長,特殊公害課長,国際連合環境計画アジア太平洋地域事務局次長等を歴任。