ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

個人暴露量とベンゼン

研究ノート

相馬 悠子

 昨年度終了した特別研究「環境中の有機塩素化合物の暴露量評価と複合健康影響に関する研究」に携わった関係で,大気中の揮発性有機化合物の個人暴露量調査を続けている。クロロホルム,トリクロロエチレン等の揮発性有機塩素化合物,ベンゼン,キシレン等の芳香族化合物18種類の大気からの個人暴露量の地域における違いや室内空気との関連を調べてきた。これらの物質は大気汚染防止法の改正が検討される中で,長期毒性を有する大気汚染物質として定義された有害大気汚染物質リストにのった物質であり,5物質は優先取組物質に入っている。またこの18物質は有害大気汚染物質リストの中でも,我々の生活環境,特に室内空気中で検出頻度が高い物質である。

 大気中物質による健康リスクを評価する場合,暴露濃度として一般環境大気中濃度を使用する場合も多いが,協力者に1日サンプリングチューブを持ってもらい個人暴露量調査をしてみると,個人暴露濃度が一般環境大気中濃度より大きくなる物質が多いことがわかった。それは揮発性有機化合物では室内にある化学物質とか,身近で扱う化学物質が暴露を大きくするためである。例えば防虫剤のp-ジクロロベンゼンを使用している家の人はp-ジクロロベンゼン暴露量が極端に大きいこと,テトラクロロエチレンはクリーニング店に行かなくてもドライクリーニングしたばかりの洋服を着ているだけで暴露量が多くなっている。

 測定対象の18種類の中で人に発がん性が認められているのはベンゼンだけであり,ベンゼンの暴露量とその健康リスクを評価することは重要である。環境庁でも大気中有害物質の優先取組物質にあげられ,大気汚染防止法の改訂で大気環境基準の指針値として3μg/m3以下であることも示された。

 ベンゼンの発生源は83%程度が自動車関連であるとアメリカでも日本でも推定され,自動車燃料からの発生が多いことがうかがわれる。ガソリンにはベンゼンが0.5〜5%程度含まれているが,排出ガス中のベンゼンもガソリン中のベンゼン含有率に大体比例している。アメリカではガソリン車が多いがカリフォルニア州でガソリン中のベンゼン含有率規制以後,大気中ベンゼン濃度の減少がみられており,自動車からの排出量減少も寄与しているとされている。

 アメリカ環境保護局 (EPA) のベンゼンの個人暴露量調査結果によると,非喫煙者の1日暴露量は大体0.2 mgである。暴露原因は自動車運転や外気からの暴露を含めて自動車燃料関連からと考えられるものが主要部分であり,暴露量を減少するためには自動車の排出ガス対策が効果を挙げるであろうと推定される。ところが喫煙者は暴露量が非喫煙者の10倍にもなるという結果が得られている。ということは,喫煙者はタバコの煙から発生するベンゼンに1日 1.8 mgも暴露されており,一般環境大気からのベンゼン暴露をはるかに上まわっていることを示している。これは上述のように,身近で扱う物質の影響が極端に大きい例であろう。従って喫煙者がベンゼン暴露量を減少しようとするなら,タバコをやめることが一番効果的と言える。

 日本の喫煙者も,これ位多量のベンゼン暴露を受けているのであろうか?今年度はベンゼンを中心に個人暴露量調査をしようと考えている。しかし研究所内では喫煙者数が減少しているようで,協力者を集めるのが難しそうである。「私はタバコを喫っています」という方の協力をお願いします。乞連絡。

(そうま ゆうこ,化学環境部計測技術研究室長)

目次