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自由連想法とクラスター分析による水辺に対する住民意識の研究

論文紹介

須賀伸介,大井 紘,原沢英夫:土木学会論文集,No.458/IV-18, 91-100(1993年)

 海,湖,川を中心としたいわゆる水辺空間は人々の生活にとって重要な場所である。また同時に水辺空間は憩いの場,レクリエーションの場としても重要な役割を果たしている。ところで,特定の水辺空間,例えば東京湾や霞ヶ浦等に着目したとき,人々はその水辺に対してどのようなイメージを持っているのであろうか。また,水辺のすぐ近くで生活している住民と水辺から離れた場所で暮らしている人々の間で水辺のイメージは異なるであろうか。本論文ではいま述べたような観点から水辺に対する住民の意識の分析を試みている。

 本研究では霞ヶ浦を研究の対象とし,霞ヶ浦北西部の高浜入りに面している玉里村(以後玉里と書く),高浜入りから約5km北西に入った石岡市(石岡)の住民に対して水辺に関するアンケート調査を行った。この調査では,回答者に対して「水辺」という言葉から連想することを自由な形式で記述してもらう方法を採用した。この調査方法は自由連想法と呼ばれている。調査の結果に対してクラスター分析を適用し,調査地域毎に回答者全体を共通の意識を持ったいくつかのグループに分類した。その結果から調査地域による水辺意識の違いを調べた。

 自由連想法による調査では,回答者は「海」,「湖」,「川」のように単語を並べて回答したり,「水がきれいで子供達が水遊びのできるところ」のように文章や句等で回答を行う。調査結果に対するクラスター分析では回答者が記述した単語と回答者の2種類の集合を解析の対象とする。このとき必要になる類似度は記述された単語の種類と記述された回数(記述頻度)から計算される。そのために文章などで記述された回答は単語に分解して,さらに意味を持たない単語は解析の対象から除外する。例えば前に示した単語を並べた回答例では記述された単語をそのまま考え,後の回答例では,水,きれい,子供達,水遊び,の4語を解析の対象とする。単語集合に対する類似度は,多くの共通した回答者に記述されている単語同士ほど類似性が高くなるように,回答者に対する類似度は,多くの共通の単語を記述している回答者同士ほど類似性が高くなるように定義する。クラスター分析は調査地域ごとに行う。また解析の対象とする単語は頻度の高い方から約50語を選んだ。

 単語のクラスター分析結果は,各調査地域の人々全体の水辺に対する連想の構造を与える。つまり,各クラスターに集まる単語の共通性を調べることによって人々の連想の主題を理解することができる。玉里と石岡の結果からは例えば,水辺の遊びに関連する語(水泳,水遊び,ボートなど),静かな情緒的なイメージを持つ語(せせらぎ,花,靜かなど)がそれぞれ一つのクラスターに集まる。このような語の集まりが連想の主題を表している。玉里の調査に関する単語のクラスター分析結果を表に示す。x1〜x9の9つのクラスターが得られた。

 回答者全体をクラスター分析して得られる回答者グループの考察では,単語のクラスター分析結果と対照させて考えるとその特徴が見えてくる。例えば,さきに述べた遊びについての連想をするグループ,情緒的なイメージを連想するグループが存在する。また,水辺の近景についての連想を行っているグループも得られる。玉里の結果の特徴は,玉里の住民にとってすぐ近くに存在している霞ヶ浦を意識しているグループが見いだされたことである。実際,霞ヶ浦において代表的な植物である葦,まこも等を共通して連想するグループが存在する。石岡では,水,きれい,川,湖の4語を共通して連想しているグループ,玉里では,水,きれい,霞ヶ浦の3語を共通して連想しているグループが得られる。実際の回答原文を調べてみると,石岡のグループは水辺から川や湖等の水辺一般を連想し,その中で清浄な水あるいは水辺を意識しているのに対して玉里のグループは身近な水辺である霞ヶ浦に対して清浄な水あるいは水辺を意識していることがわかる。

 以上の結果は,玉里では水辺に対して身近な霞ヶ浦を想起して連想を行っていること,石岡では川や湖などの水辺一般が連想の対象であることを示している。これは,水辺の開発や保全計画を住民意識を考慮しておこなう場合,水辺一般に対する意識と霞ヶ浦などの固有の水辺に対する意識の両方を把握しておくことが周辺住民の求める水辺空間を確保するために重要であることを示唆している。

(すが しんすけ,社会環境システム部情報解析研究室)

表  「水辺」という言葉から連想された単語のクラスター分析結果