有限地球観と地球科学
地球は有限であることは誰でも知っているが,その認識は時代と共に変わってきた。昔,わずかな人間しか地上に住んでいなかった頃,地球は実質的に無限であった。しかしそれでも,水,森などの資源をめぐって人間の争いは絶えなかった。オアシス,水の争奪戦は旧約聖書にすら出てくる。
そして現在,世界の人口は55億人となり,地球は現実に狭くなった。下の図は10年前,人口がいまだ44億人の頃,私なりの有限地球観を述べるために作ったものだが,その後も人間が増え続け地球環境問題は一層深刻になっている。
言うまでもないが,有限の地球で人類だけが無限に増えることができる筈はない。いわゆる持続可能社会とは,実現は大変に難しいことなのであろう。すでに地球が人間活動の後始末ができなくなり,環境問題は地球規模に拡がった。その上人口は一様に増えるわけではないから,地球環境は常に国際問題化する。
以上要約するに,問題の本質は,増え続ける人間が,資源・エネルギーを大量に消費し地球規模で環境が破壊することにあり,問題は文明を見直すほどに大きい。このような時,将来への指針を与えるのが諸々の学問であると言えるが,今の地球環境問題は特に地球科学に拠るところが多い。この意味では環境を論ずる,今の地球科学の責務は極めて大きいと言わなければならない。地球の科学は,今更ながら「真摯に地球に学ぶ」姿勢が大切なのであろう。
昨年11月,「環境基本法」が制定された。これには「持続型社会,国際協調,国民の責務」など,環境についての理念が強調されている。これらは地球環境の研究理念に通ずるところが多いと思われる。国立環境研究所は「学問を通して」,これらの理念に応えたいものである。
目次
- 創立20周年記念式典を挙行
- 20周年記念特別研究発表会報告論評
- 海産円石藻による物質循環と凝結核形成省際基礎研究の紹介
- 地下水中における硝酸性窒素の起源に関する研究プロジェクト研究の紹介
- 故高橋弘氏を偲ぶ
- “Enhanced tolerance to photooxidative stress of transgenic Nicotiana tobacum with high chloroplastic glutathione reductase activity” Mitsuko Aono, Akihiro Kubo, Hikaru Saji, Kiyoshi Tanaka and Noriaki Kondo: Plant and Cell Physiology,34(1),129-135,(1993)論文紹介
- 波照間−地球環境モニタリングステーションにおけるエアロゾルとオゾンの測定研究ノート
- 自由連想法とクラスター分析による水辺に対する住民意識の研究論文紹介
- 新刊・近刊紹介
- 主要人事異動
- 編集後記