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実市街地を対象とした自動車排気ガスの拡散予測〜「広域都市圏における交通公害防止計画策定のための環境総合評価手法に関する研究」から〜

プロジェクト研究の紹介

森口 祐一

 平成元年度に開始された通称「交通公害特研」も、最終年度である3年目に入った。その全体像については、既に本誌第8巻6号で紹介されていることから、本稿では特研の一環として行っている自動車排気ガスの拡散予測手法、特に実市街地への適用について述べたい。

 道路沿道での窒素酸化物や浮遊粒子状物質による汚染の深刻さは改めて指摘するまでもないが、その要因の一つに複雑な道路構造や高密度の建物による排気ガスの拡散阻害が挙げられる。毎年、NO2の高濃度地点として発表される地点の中には、周囲を高いビルに囲まれ、道路が二重、三重に立体交差する交差点の測定局が含まれている。

 こうした複雑な市街地での排気ガス拡散の予測手法として、本研究では微分方程式の反復解法による数値シミュレーションと、大型大気拡散風洞を用いた模型実験の2つの方法を適用している。これまでに、道路構造と建物の高さ、密度の組み合わせを変化させた仮想的な市街地を設定し、数値計算と風洞実験の結果が図のようにおおむね一致することを確認したうえで、道路構造や沿道構造と排気ガスの拡散特性との一般的な関係の解析を行ってきた。現在はこれらの予測手法の実用性を検証するため、地方環境公害研究機関との共同研究を行いながら、実市街地を対象とした2例のケーススタディを実施中である。

 その1つは、幹線道路の両側に11階建ての高層住宅が道路に沿って長さ約100mにわたって続いている地区である。こうした形状の地区では、建物に挟まれた道路上方に生ずる渦状の大気の流れにより、道路の風上側の建物に沿って高濃度が出現する「ストリートキャニオン現象」が従来から報告されている。高層住宅の2階から11階及び歩道上の街路灯の計5地点において自治体により行われたNOx濃度実測調査の結果のうち、風向が道路に直交する条件のデータを選び出し、同じ断面構造が道路に沿って無限に続くと仮定した二次元数値シミュレーションモデルによる計算結果と比較したところ、両者は定量的によく一致した。また、1/250の模型を用いた風洞でのトレーサーガス拡散実験でも同様の結果が得られた。

 もう1つの事例は、地方都市の市街地中心部の交差点で、その一郭に大型で高層のビルが建っている場所である。ビルの1階部分に位置する自動車排出ガス常時監視測定局でNOxの高濃度が観測されたため、その原因の解明に国環研と地公研との共同研究の中で取り組むこととした。従来行ってきた研究から、高層ビルが道路の風上側に位置する場合に、ビル背後へ風が回り込むことによる高濃度域が現れるという結果が得られていたが、同様の現象がこの事例で生じているかどうかを中心に検討を行った。ビルは交差点の西側に位置しており、昼間交通量の多い時間帯に卓越する西〜南西の風のときに高濃度が観測された。このときは、ビルが交差点の風上側に位置することになる。写真に示すような模型を風洞の中に製作してトレーサーガス拡散実験を行い、交差点周辺の延べ300地点について濃度測定を行った。西及び南西の風の条件について求めた濃度分布では、常時監視局の位置する付近が最も高濃度となっていた。数値シミュレーションでも同様の濃度分布が再現され、大気の流れの分布の計算結果は、ビルの背後へ回り込む風が、交差する2本の道路の排気ガスを交差点の中心方向へ集める形となっていることを示していた。なお、この高濃度域は交差点付近のごく一部の範囲に限られており、風下側、すなわちビルの対角にあたる東側の沿道の濃度は、風上側(西側)の沿道の1/10程度にすぎなかった。こうした結果から、対象地区における濃度分布にビルによる局地風が大きく影響していることが明らかにされ、常時監視局での高濃度もこれに起因するところが大きいと推察された。

 これら2例について、数値シミュレーションと風洞実験はともに実際の市街地での現象をおおむね再現できたと考えられ、特に後者の例では、局地的な高濃度の原因を合理的に説明することに成功している。現在、予測の対象としているのはNOを含めたNOx合計値であるが、環境基準がNO2として定められていることから、NOx濃度の予測の適合性の確認を積み重ねるのと併せて、化学反応をモデルに取り入れたNO2濃度予測モデルの開発を進めることが、今後の課題である。

(もりぐち ゆういち、地域環境研究グループ交通公害防止研究チーム)

図 風洞実験結果と数値計算結果の比較
交差点周辺を対象とした風洞拡散実験模型の写真