2021年6月29日
自然生態系分野における気候変動への適応
コラム3
自然生態系における気候変動への適応には、様々なアプローチが考えられます。例えば、先述した「将来分布予測」を活用して、将来の気候条件下でも分布が残りやすい場所を優先的に保全する手法があります。他にも気候変動にともなう生物の移動をよりスムーズに行えるように、分断されている生息場所のつながりを高める方法もあります。このような広い空間スケールでの適応策だけでなく、生息環境の中に高温時の避難場所を確保するなど、環境の多様性を高めることも役立ちます。これらは野外での保全が優先ですが、それが困難だったりリスクがきわめて高い場合の最終手段としては、植物園や動物園による域外保全や施設での遺伝子保存も選択肢になります。
もともとの場所で種を守るのがよいのか、新しい生態系をうまく活かすように社会を変革するほうが合理的か、といった本質的な議論も始まっています。これは、これまでの生物多様性の保護・保全の議論にはなかった論点です。自然生態系における適応策のあり方の議論はまだ始まったばかりであり、様々な分野の専門家が妥当性と実現可能性を考慮しながら検討しています。